川崎汽船がLNG燃料船を川崎重工やノルウェー船級協会と共同開発。きっかけは北欧の環境規制強化

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川崎汽船がLNG燃料船を川崎重工やノルウェー船級協会と共同開発。きっかけは北欧の環境規制強化

海運大手の川崎汽船が、川崎重工業やノルウェー船級協会、デット・ノルスケ・ベリタス(本部・オスロ。日本本部は神戸。以下DNV)とLNG(液化天然ガス)を燃料とする自動車船を共同開発していると、25日に川崎汽船が本社で発表した。フェリーではすでに海外で実現例があるが、自動車船など商船でのLNG燃料船が実現すれば、世界初となる。川崎汽船は2016年以降に2000台積みのLNG燃料船を北欧で投入する。ただ、7月25日時点では未発注。発注から竣工まで2年半~3年なので、発注するかどうかは13年中に決めればよい。

昨年12月にプロジェクトチームが発足。方向性に一定のメドがついたとして今回の発表となった。親密な造船会社の川崎重工が関与するのは当然として、船級協会のDNVが参画したのは、LNG燃料船の商船を独自開発しても、船級を認定されなければ元も子もないため。すべての外航船は船級協会から船級認定を受けなければ、他国の港に寄港することができない。

プロジェクトのトリガーとなったのは、北欧や米国の沿岸などECA(Emission Control Areaの略で、エカと発音する。特別規制海域のこと)における規制強化だ。米国沿岸では12年以降、欧州では15年以降、船舶燃料に含まれる硫黄分が全体の0.1%以下でなければならないとするSOx規制強化のほか、16年以降、窒素酸化物の排出量を現行規制値の80%減を達成しなければならないNOx規制強化が予定されている。川崎汽船は北欧海域で現在10隻の自動車船を運航している。

これらのうち、前者のSOx規制強化については、「現行の重油ではなく、軽油や灯油など高い燃料を使えばいい」(川崎汽船の有坂俊一・技術グループ長)が、後者のNOx規制強化では「燃料を変えてもダメ。脱硝装置を設置しなければならないが、装置が巨大でエンジンルルームの拡大が必要になる」(有坂グループ長)。脱硝装置の設置には「数億円を要するほか、大量の還元剤(尿素)を必要とするために、ランニングコストが10%アップする」(同)。

LNG燃料船の建造費は11月をメドに積算する。建造費を公表する商慣行はないために、厳密な建造費が判明することは残念ながらなさそうだが、「現行の同型自動車船に比べて、2倍以上になるということはない。2倍以上になるのだったら、そもそもやらない」(有坂グループ長)。つまり、高騰を続ける重油が将来2倍以上になるのであれば、LNGで将来的には十分ペイするという見立てが背景にある。

現行船に比べて建造費がかかる最大の理由は、摂氏マイナス163度と極低温で、6気圧の圧力でLNGを液化した状態に保つ燃料タンクを搭載する必要があるからだ。安全面の問題から、ガス燃料供給管をバルブも含めてすべて二重に覆うか、独立したエンジンを2基搭載しなければならないのも、コストアップ要因となる。重油燃料の現行船ならば、搭載エンジンは1基でこと足りる。「二重管は技術的に厳しく、エンジン2基の搭載はコスト的に厳しい」(有坂グループ長)。

採用予定のエンジンは、舶用ではメジャーなディーゼルエンジンではなく、リーンバーンエンジン。副燃焼室で点火プラグのスパークで燃焼・爆発させてピストン運動をもたらす方式で、同方式の「カワサキグリーンガスエンジン」は、発電用途では世界最高のエネルギー効率48.5%を誇る。自動車エンジンではホンダを中心に一世を風靡した技術。ただ、NOx排出量の多さから廃れた「枯れた技術」でもある。LNGならばNOx排出の問題がないので適しているのか? そのあたりについての質問に対して、記者会見では「エンジンの専門家が同席していない」ことを理由に、残念ながら、明らかにされなかった。

LNG燃料船は安全面への配慮から、船への港での燃料供給時に荷役をしてはいけないという規制もある。重油燃料船ならば、荷役と同時に燃料を積むことが出来るために、LNG燃料船は寄港日数が余計にかかるデメリットもある。「その問題への対応はフェーズ2でやっていこうと思っている」(有坂グループ長)。


(山田 雄一郎 =東洋経済オンライン)


《東洋経済・最新業績予想》
(百万円)    売 上  営業利益 経常利益  当期利益
連本2011.03  985,084 58,609 47,350 30,603
連本2012.03予 1,090,000 6,000 3,000 2,000
連本2013.03予 1,140,000 21,000 18,000 12,000
連中2010.09  520,358 50,008 42,849 26,329
連中2011.09予 530,000 -4,000 -5,000 -2,000
-----------------------------------------------------------
         1株益¥ 1株配¥
連本2011.03  40.1 9.5 
連本2012.03予 2.6 0-2 
連本2013.03予 15.7 0-6 
連中2010.09  34.5 4 
連中2011.09予 -2.6 0-1 
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