トルコのEU加盟が欧州にもたらす利益--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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トルコはほかのイスラム国家をよりリベラルで民主的な方向に導くよい立場にある。EUに加わる見通しが現実となれば、トルコは欧州とイスラム諸国の間の緊張を和らげる役目を担えるはずだ。一方トルコ抜きでEUが中東に関与すれば、西欧帝国主義と見られかねない。

トルコがEUに加盟すれば、欧州はキリスト教世界であるという古くさいイメージを払拭することもできる。確かにキリスト教は欧州文明を作ってきたが、すべての欧州人がキリスト教徒であるわけではない。

人口の大半がイスラム教徒である民主国家トルコがEUに加盟すれば、欧州各国にいるイスラム教徒を欧州人として受け入れることが容易になるはずだ。共通の利益、共通の制度がEUの枠組みを作っていると信じている人は、トルコを受け入れることで勢いを得るだろう。だが、文化や宗教に基づいた欧州のアイデンティティを求める人は、加盟に反対するだろう。

経済危機とナショナリズムの台頭、内向きのポピュリズムが勢いを得ている今日、イスラム諸国がEUに加盟するチャンスは小さい。

だが、多数派がつねに正しいわけではないし、時代はつねに変化する。そのとき、私たちは「時代がもっと早く変わればよかったのに」と後悔することになるかもしれない。

Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

(週刊東洋経済2011年7月30日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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