流行危機なのに「麻疹ワクチン」が足りない大問題 武田は自主回収、第一三共・田辺三菱は出荷制限

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わが国で麻疹の定期接種が始まったのは、1972年10月1日からだ。

それ以前に生まれた人の多くは麻疹に罹患しているだろうが、一部の人は免疫をもっていない。1972年10月1日から2000年4月1日生まれの人も1回しか麻疹ワクチンを打っていないため、十分な免疫を有していない人がいる。

このため、わが国では、この世代を中心に流行を繰り返している。2010年以降では2012年、2014年、2015年、2016年、2018年、2019年と6回流行し、今年も感染が拡大している。

麻疹の流行を食い止めるには、免疫がない人たちにワクチンを打つしかない。厚労省も問題を放置しているわけではない。

2007年の流行を受け、2008年4月から5年間に限定し、中学1年生および高校3年生相当年齢の子どもに定期接種を実施した。しかしながら、それ以前の世代は手つかずだ。

出荷を制限するワクチンメーカー

筆者が問題視するのは、厚労省がこの問題解決に関して、本気度が足りないないことだ。

現在、はしかワクチンを国内で販売するのは武田薬品工業、第一三共、田辺三菱製薬の3社だけだ。

2022年のMRワクチン生産量は159万2000人分、はしか単体ワクチンは5万7000人分、つまり合計で165万人分だった。これは定期接種の対象者数とほぼ同じだ。未接種世代が麻疹ワクチンを希望するのは、麻疹が流行したときだが、彼らに回す余裕はない。

今回は武田薬品工業が、1月16日にMRワクチンの一部ロットの自主回収を発表した。ワクチンの効果を示す「力価」が、国の規格を下回っていたためだ。

翌日には、第一三共も「他社製品の自主回収により供給に影響が生じる可能性が否定できない」としてMRワクチンの出荷を制限した。田辺三菱製薬も、同様の措置をとっている。定期接種分を確保するための措置だろう。

現在、わが国では麻疹ワクチンが不足している。これについて、厚労省や専門家はどのように考えているのだろう。

厚労省の審議会の常連である川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、マスコミの取材に対し、「成人の9割はワクチンや過去に感染したことによる自然免疫で抗体を獲得しているとされる」「まずは小児の定期接種を進め、成人で感染によるリスクの高い人は抗体検査などを受けて、必要であれば接種を受けてほしい」と語っているが、これでは十分ではない。

少なからぬ国民が麻疹ワクチンの接種を希望しているにもかかわらず、この説明は、彼らの声にまったく応えていない。

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