中学の部活の地域移行に合わせて、大学を開く

スポーツ庁と文化庁は、2023年度から2025年度までを部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行の「改革推進期間」と位置付けている。背景にあるのは教員の働き方改革だ。教員の残業時間について「月45時間、年360時間以内」と定めるガイドラインの上限を超えるケースは今も多く、改善が急がれている。

そんな「部活動の地域移行」が、設立背景の1つとなっている吹奏楽団がある。開智国際大学が地域に開く形で結成した、学生と社会人から構成される、開智アカデミックウインドオーケストラ(以下、開智アカデミック)だ。

同楽団を率いるのは、開智国際大学教授で千葉県吹奏楽連盟副理事長の石田修一氏。石田氏は、2015年に開智国際大学で吹奏楽部を創設したのち、2023年4月に開智アカデミックへ拡張、地域に開かれたバンドにした。現在の所属メンバーは大学生と社会人。学業や仕事と両立しながら、限られた時間の中で切磋琢磨し、音楽を作り上げている。

石田修一(いしだ・しゅういち)
開智国際大学 教育学部 教授
千葉県吹奏楽連盟副理事長

「地域移行が本格化した際には、これまで学校で吹奏楽に親しんできた中学生が吹奏楽を続けられる場所になれたらという気持ちでスタートしました。地域移行の場合、練習場所が確保できないというのも大きな問題ですから、大学の施設を利用してもらう意義も大きいと考えています」

※文科省が2020年9月に示した資料「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」によると、改革の主な対象は公立中学校。高等学校についても改革が行われるが、中学校の改革が急がれている

ただ全国を見てみると、部活動の地域移行の進捗は自治体ごとにまちまちだ。開智アカデミックの拠点である千葉県柏市では、「一般社団法人 柏スポーツ文化推進協会(KSCA)」を中心に、多くの運動部は地域クラブ活動への移行を開始しているが、吹奏楽部については練習場所の確保の観点から、2023年度時点では移行の除外とされている。

石田氏は地域移行の「改革推進期間」を「猶予期間」と見る。

「地域で吹奏楽を行う場合、学校で活動を行うよりも遠い場所まで移動しなければならなかったり、活動費がかかったりと、保護者や子どもの負担が大きくなるケースもあります。学校で活動が許される間は、子どもたちには学校にとどまって練習してほしいので、中学生高校生については、『学校の部活動が存在している限りはそちらで活動してください』とお話ししています」

吹奏楽は、今後も学校での活動が継続されるのか。それとも地域クラブとしての活動になるのか。「改革推進期間の終わる2026年4月には、一部の強豪校を除いて、ほとんどの中学校で吹奏楽部も地域移行するでしょう」と石田氏は見る。

吹奏楽部の生徒数が少なく、また教員も人手不足となっている学校については、そうした学校で集まりエリア全体で活動することによって、他校のリソースを共有し合えるなど、地域移行のメリットが大きい。

一方で生徒数も多く、自らやりがいを持って指導にあたる先生がいるような強豪校については、地域移行から受けるメリットが少なく、むしろこれまで紡がれてきた文化や運営のノウハウが途絶えてしまうリスクもある。各自治体は地域移行を一律ではなく、それぞれの学校の状況やエリア全体の状況を見極めながら推進する必要がある。

指導者を育て、アメーバのようにバンドを増やす

現在、同楽団は開智国際大学の学生約60名、社会人あるいは他大学の学生約60名の120名前後で活動している。今後、部活動移行の推進期間が終わり、中学生を受け入れる場合、どのような体制を考えているのか。

「以前高校で教えていた時の経験からすると、やはり1人ひとりの個性を把握して指導するうえでは、一団体60名から70名程度が理想です。私は吹奏楽部活動指導員認定講習(主催:一般社団法人日本管打・吹奏楽学会)の講師も務めていますが、いま開智アカデミックでは、社会人メンバーで指導員の認定を受けている人が何人かいます。そうした人たちが次の指導者となって、1つのオーケストラでなく、アメーバのようにここから派生してバンドを増やしていきたいと考えています」

一般社団法人を立ち上げ、そこに所属してもらい指導者を派遣していく仕組みなども整えたいと語る石田氏。開知アカデミックはまだアメーバのように分かれる段階には至っていないが、すでに市内の別の楽団の新規立ち上げを支援するなどしているという。

「先日も、市内のある小学校からスピンアウトした吹奏楽団の立ち上げに少々携わりました。開智アカデミックに所属している指導員の資格を持った方に、学生とともに指導に行ってもらいました」

小学校へは、打楽器のメンバーも指導しに行った。叩くと音が鳴るとっつきやすさからか、打楽器が一番、小学生に人気だったという

柏市内では、中学校に先んじて、小学校の放課後活動の地域移行が進んでいる。市立小学校で4年生以上が放課後などに行っている「特設クラブ活動」(部活動に相当)については、2026年度以降に廃止される方針だ。

「2026年度以降に廃止なので、すでに4年生の団員募集は行われておらず、実質は活動停止している小学校が多いです。ただ、中学校と同様に、地域で活動を続けていこうとしているクラブもあり、一部の相談を受けたクラブについては支援をしています」

任意とはいえ、これまで柏市では特設クラブを設置している小学校が多く、とくに吹奏楽クラブの活動は、ほかの自治体に比べても盛んであった。例えば、柏市立酒井根東小学校は、東日本学校吹奏楽大会において、2017〜21年まで毎年金賞を受賞している(2020年は新型コロナウイルスの影響により大会未開催)。

小学校から楽器に触れ、音楽の楽しさを知った子どもたちは、中学生・高校生・大学生・社会人になっても吹奏楽を続けていく傾向にある。

「地域移行が、小さいうちから音楽に親しむ機会を減らしてしまう契機になってしまってはよくありません。今後も、あらゆるクラブや部活が地域で活動を続けられるように支援していきたいと思っています。ただ、先の事例は、これまで顧問だった小学校の先生がやる気のある方で、かつ校長先生がこれまで通り音楽室も使わせてくれているからこそできていること。今後、地域移行で学校の施設が使えなくなれば、子どもたちの居場所がなくなってしまいます」

地域移行においては、学校の施設を使い続けられるように地域に開いていくことや、地域の指導者を育てていく仕組みの重要性が感じられる。後半では、教員の働き方改革や学生の勉強との両立で練習時間が短時間化する中でも、効率的に音楽を楽しみ上達する運営ノウハウや練習方法について、石田氏と吹奏楽作家のオザワ部長との対談形式でお届けする。

(企画・文・撮影:吉田明日香)

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