「民主政治の枠の中の権力者」ではない菅首相

「民主政治の枠の中の権力者」ではない菅首相

塩田潮

 田中元首相以後の歴代首相の退き際を見ると、大きく7つのタイプに分類できる。

 (1)「いつでも辞める」という気の政権不執着型(鈴木氏、村山氏、福田氏)、(2)政権放り投げ型(細川氏、安倍氏、鳩山氏)、(3)行き詰まり・沈没型(竹下氏、宇野氏、羽田氏、森氏)、(4)返り咲きを目指した不完全燃焼型(田中氏、福田赳夫氏、海部氏、橋本氏)、(5)天寿全う型(中曽根氏、小泉氏)、(6)死去や意識喪失による進退判断不在型(大平氏、小渕氏)、(7)ぎりぎりまで諦めない「辞めない首相」型(三木氏、宮沢氏、麻生氏)。

 退陣表明から後任選出までの在任日数で森氏の47日を超え、戦後最長記録を更新中(7月25日で53日)の菅首相は、もちろん(7)の「辞めない首相」の代表選手である。

 歴代首相の辞め方は十人十色だが、退き際に発した言葉は興味深い。党首選敗北の福田赳夫氏は「天の声も、たまには変な声もある」と口走った。金脈事件の田中氏は「俺が辞めないと収まらないと思う」とつぶやいた。もう一人、リクルート事件の竹下氏も、後に私のインタビューで「大騒ぎになって、辞めないと収まらないから、それで」と語った。宮沢氏は退陣表明で、指導者には「知・仁・勇」の三つの徳が不可欠という日頃からの心がけを持ち出し、「知者はまどわず、仁者は憂えず、勇者はおそれず」と述べた。

 菅首相は「うちの菅直人に徳なんてございません」(毎日新聞6月9日付朝刊)と伸子夫人にずばりと言われた人物だが、田中氏や竹下氏のように「辞めないと収まらない」と思うかどうかが進退の最後の判断基準になりそうだ。

 「収まる」とは、混乱を収束させて落ち着いた状態に戻す、政治を安定させるという意味だ。田中氏、竹下氏は退陣待望論という空気に負けて仕方なくという無念もあったはずだが、一方で主権者である国民の怒り、不信感、不満に耳を傾けなければ国が危うくなると深刻に受け止めたのではないか。

 その意味では、二人とも民主政治の枠の中の権力者だったといえる。これ以上、居座りを続ければ、国民も国も収まりがつかなくなると菅首相が観念するのはいつの日か。

(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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