ユーロ 統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望 デイヴィッド・マーシュ著/田村勝省訳 ~逆境を克服した北の国 南欧は好環境に安住

ユーロ 統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望 デイヴィッド・マーシュ著/田村勝省訳 ~逆境を克服した北の国 南欧は好環境に安住

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

統一通貨ユーロが誕生して12年が経過した。最初の10年は比較的順調だったが、近年は、周辺国が財政・銀行危機に陥るなど深刻な状況が続いている。

本書は、欧州大陸の政策当局に幅広い人脈を持つ英国人ジャーナリストが、ユーロ誕生の背景を歴史的、政治的に分析し、先行きを展望したものである。ユーロ誕生にかかわった独仏の政策当局者への取材を基にしており、ユーロ圏経済の行方を考えるうえで有用な一冊である。

独仏間で通貨統合が合意された直接のきっかけは、ドイツの東西統合である。膨張したドイツが新たな秩序を欧州に課すことをフランスが恐れ、共同で欧州経済の運営をすべく、通貨統合が目指された。

英国がERM(欧州為替相場メカニズム)から離脱を余儀なくされた1992年の欧州通貨危機の後、通貨統合は不可能になったと米英や日本では考えられていた。しかし、統合なしでは、フランスもいずれ離脱を迫られ、ERMは空中分解する。そうした懸念が、独仏の当局者を突き動かした。

ユーロ加盟の際、高インフレで輸出競争力の弱い南欧は、割安な為替レートでの加盟が容認された。域内で一本化された金融政策は、高インフレの南欧にとり景気刺激的で、加盟直後の景気は好調に推移し、スペインのバブルの遠因ともなった。この間、生産性向上の努力は行われず、競争力は低下した。低金利で利払い負担が軽減されたため、財政規律が緩みギリシャやポルトガルでは放漫財政が続けられた。これらが南欧の現在の経済停滞や財政・銀行危機の背景である。

割高な為替レートでの加盟を強いられたドイツやオランダなど北の国々では、生産性向上の努力が行われ、輸出競争力を高めた。これが、現在のドイツ経済が好調な背景である。逆境を克服し生産性を高めた北の国と、好環境に安住し生産性向上を怠った南欧の間で進んだ二極化は簡単に解消されないという。

それでは、南欧はユーロ離脱による通貨調整が避けられないのか。ユーロを離脱し割安な自国通貨に復帰すると、現在抱える債務のすべてがユーロ建てであるため、政府も企業も過剰債務に苦しめられ、経済は立ちゆかなくなる。結局、南欧はユーロにとどまり、ドイツが支援条件とする厳しい財政再建や構造改革を受け入れるしかない。

今回、欧州中銀の次期総裁にイタリア中銀総裁のドラギ氏が決まった。南欧に配慮し低金利政策を続けると、経済が好調なドイツなど北の国で物価安定が脅かされる。弱い南欧ではなく、強いドイツなどがユーロから離脱する恐れはないだろうか。

David Marsh
公的通貨・金融機関フォーラム(OMFIF)の共同議長、SCCOインターナショナル会長、英バーミンガム大学名誉教授。1978~95年にフィナンシャル・タイムズ勤務、その間にフランス、ドイツでの駐在経験があり、ヨーロッパ担当の編集主任も務めた。

一灯舎 3360円 450+102ページ

  

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