不登校「数を減らす意味ない」慶大教授が語る根拠 ほろ苦い記憶「不登校だった私を救ったもの」

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うちは貧しい母子家庭で父親はいない。母親の仕事は水商売。おまけに中学受験も失敗している。なんとかして、そんな欠乏感だらけの人生から抜け出したかった。私は、自分なりのやり方で、必死に突っ張って生きようとしていた。

気の毒なのは学校の先生。完全に扱いに困っていた。ある日、学年主任と担任の先生が、面談をひらき、私がクラスの雰囲気を悪くしていること、身勝手な行動は決して自分のためにならないことを、延々と母に説き続けた。

まるでサンドバッグだった。だが、先生の言うことは、私が聞いていても明らかに正しかった。母は、目をつぶって、しょんぼりうなだれている。私は私なりに命懸けだったが、子のわがままで叱られる母の姿を見るのは本当に辛かった。

「みなさんよりも息子のことを信じています」

長いお説教が終わった。母はなんと詫びるのだろう、なんと言って私を責めるのだろう、ビクビクする私のとなりで、母は声をしぼりだすように言った。

「英策が休むのはみんな私の甘やかしのせいです。本当に申し訳ありませんでした。でも先生。私はみなさんよりも息子のことを信じています」

衝撃だった。私はこの一言を死ぬまで忘れない。絶対に。

自分が悪いことくらいわかっていた。でも、どんな生きかたが正解なのか、どうやって状況にあらがえばよいのか、わからなかった。ただ不安だった。だから、どうしても母にだけは、私を肯定してもらいたかった。

もし、母が先生と調子を合わせて私を非難しようものなら、私の心は砕け散っていたに違いない。だが、母は私をかばってくれた。全力で、わが子の生きかたに一本の芯を通してくれた、心からそう思った。

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