賃上げしても「給料安い」と憤る若者の何が問題? 経営者と従業員との間にある「情報の非対称性」

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それに、誰だって「仕事に求めるものは何か?」と質問されて、「お金」とは、なかなか答えられない。相手の心象や周りの目も気になる。だから、

「私はお金よりも、やりがいを重視したいです」

と部下に言われても、それが本音かどうかわからない。超採用難の時代は今後もずっと続く。若者に対する誤解や勘違いは、会社の存続を揺るがす大きな問題となる。

「賃金」に関わる3つの無理解

今回の賃上げについて案の定、一部の管理職やベテラン社員は勘違いしていた。若者たちが「お金よりも仕事のやりがいを重視している」という誤解だ。だから、

「賃上げよりも、やりがいを優先させる方針をとるべきだったのか」

とある部長が発言したが、社長は一蹴した。

「20代前半の社員全員と面談した。不満はすべて『賃上げが物足りない』だった」

社長はかなり残念そうだった。今回の取り組みに協力してくれた人事労務のコンサルタントは、

「社長は思い切った判断をされました。胸を張ってください」

と勇気づけた。では、いったいなぜこのような事態になったのか。理由は極めて単純なものだった。それが社長と若者との間にある「情報の非対称性」である。

若い社員は、以下の3つの事柄について著しく理解が足りなかった。

(1)賃金の詳細
(2)賃金の水準
(3)賃金の決定プロセス

まず、賃金の詳細である。詳しくアンケートをとったところ、毎月振り込まれる金額(手取り)と、給与所得を区別できない者もいた。賃上げによって手取りが増えるとは限らない。賃上げに伴い、税金や社会保険料も上がるからだ。それを理解できていない若い社員のなかには、

「なぜ、後輩のほうが給与が高いのかわからない。学歴の差か?」

と文句を言う者もいた。また、社会保険料については会社側が社員の見えないところで半分を支払っているため、実は社員が見えている額以上に「賃上げ」は行われている。しかし、それを理解できていない若者が大半だったのである。

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