人的往来で中ロを天秤にかける北朝鮮の思惑 北朝鮮の「中国離れ」に習近平がイラついた

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北朝鮮に振り回されて、袖にされているような印象もある中国であるが、積極的に観光・往来を再開させようという動きはない。その背景には、国内経済悪化による海外旅行の需要低下がある。つまり、北朝鮮旅行を再開させる必要性が低いことも影響している可能性がある。

また、中国政府にとって海外旅行とは、重要な政治の道具でもある。国民の不満のガス抜きだったり、中国共産党への求心力を高めたり、中国人観光客を大量に送り込むことで相手国へ経済的な恩恵を与えたりと、内政にも外交にも政治利用されている。

だからこそ、海外旅行は、中央政府がしっかりとコントロールする必要があるわけだ。コロナ禍前、旅行先としての北朝鮮は、中国政府が推奨する渡航国の1つだった。

それは、中国人が北朝鮮を訪れると、「中国よりも貧しい国がある」といった意識が生じ、中国の発展ぶりをより実感させられるからだ。中国共産党が中国を豊かにしたと、求心力を高める効果もあるという。

中国の恣意的な渡航規制

さらに中国人にとって魅力的だったのは安い旅費だ。下手したら国内旅行より安い海外が北朝鮮観光だ。しかも、新義州や羅先など中朝国境の都市であれば、ビザどころかパスポートも不要で、身分証(IDカード)だけで渡航できたりもしていた。まさに国内旅行の延長状態だった。

中国では、一部の公務員はパスポートを所持できない。私的なパスポートの発給に制限を受ける公務員や国益企業が存在する。そんな人たちにとってパスポートなしで国境を越えることができる北朝鮮は、大いに喜ばれる渡航先となっていたからだ。

中には、社員旅行で北朝鮮旅行という会社も珍しくなく、推奨する中国政府から旅行会社へも何かしらのバーターやメリットが与えられ、北朝鮮旅行を後押ししていたようだ。

2022年12月、中国はゼロコロナ政策を解除。翌2023年2月に海外旅行を解禁した。ところが、詳細な理由は不明であるものの、中国政府は、タイとカンボジアへの渡航を制限した。とくにタイは、コロナ禍直前の2019年には約1100万人の中国人が訪れ、訪日中国人約959万人を超え世界で最も中国人が訪れた国だったのだ。

渡航規制は政治的な理由だと推察されるが、期待していた中国人のインバウンドがまったく回復せず、焦ったタイ政府は2023年9月に中国人向けのビザ免除を打ち出し、中国政府も事実上の規制を解いたとみられる。

また中国政府は2024年の春節時期に、なぜかモルディブへの旅行を推奨している。これらには、習近平政権の肝いり政策「一帯一路」が深く関係しているとの専門家の見立てもある。

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