TPPの早期妥結で本当に米国は潤うのか 中途半端な譲歩はすべきではない

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自由貿易への幅広い支持を取り戻すには、「自由貿易プラス補償」を考慮する必要がある。自由貿易は、それぞれの国全体にとっては双方に利益をもたらすが、各国の内部に目を向けると、貿易でより豊かになる者もいれば逆により貧しくなる者もいる。

幸いなことに、勝ち組が得る利益が極めて大きいため、その一部を再分配することで、貿易で国民みんなの生活を潤すことができる。

再配分に消極的な米国

20世紀に米国は、所得の均等や所得保障の推進を目的として、さまざまな対策を講じてきた(累進所得税から労働組合の存在に至るまで)。ところが残念なことに、その大部分が今や批判にさらされている。

ドイツ、オランダ、スウェーデンなどの国々は、GDP(国内総生産)の1~2%を「積極的労働対策」に支出することにより、貿易、技術的進歩、賃金がすべて連動して拡大・上昇するようにしている。具体的には、貿易や国内での技術進歩のせいで失業した人々のために雇用を創出する積極的な取り組みや、再教育サービスの提供などだ。これらの国々とは対照的に、米国は同様の対策にGDPのわずか0・1%しか支出していない。この割合は先進国の中で最低だ。

ホワイトハウスは、TPPはオバマ大統領の任期中に批准されねばならない、というスタンスを考え直すべきだ。参加国はTPPが将来の貿易ルールの雛形となり、中国を含む多くの国々に拡大することを願っている。

迅速な妥結を主張する人々は、次期大統領はTPPを支持しないかもしれないリスクを指摘している。民主党の大統領候補と目されているクリントン氏は、立場を明確にすることを拒んでいる。

しかし、NAFTAもKORUS(米韓自由貿易協定)も、批准したのは交渉当時の大統領でなく後継大統領だと、オバマはよく知っている。なぜなら、ブッシュ大統領(息子)が進めたKORUSを批准したのは、オバマ自身だからだ。

週刊東洋経済2015年6月27日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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