「新冷戦」を描いているが、内容はやや浅薄 「コールダー・ウォー」に描かれていること

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独自のプーチン観で「新冷戦」と位置づけ

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最近の国際情勢はまるで歴史が逆戻りしている感さえある。ロシアのクリミア統合、ウクライナや周辺国への干渉、中国の軍事力強化と南沙諸島や尖閣諸島での挑発行為など、まるで冷戦時代の再現と錯覚させるものがある。

本書も、そうした議論に沿った内容である。米国の衰退をベースにロシアと中国が新たな覇権を求めて、米国に挑戦している構図を描いている。まず本書の焦点はロシアのプーチン大統領に当てられている。

本書のプーチン論は興味深い。「米国系メディアが描くプーチンは極悪人である。しかしそのようなプーチン像をそのまま信じては危険である。彼が非情な政治家であることは事実であるが、そうならざるを得ないところもある」と、プーチン大統領を現実的なプラグマチストと評価している。だが米国政府は「プーチンは地政学について、一方が勝利すればもう一方が敗北するというゼロサム・ゲームと受け止めている」(クリントン前国務長官)と、まったく違ったプーチン観を持っている。

本書は、エネルギーを支配し、それを通して準備通貨としての基軸通貨ドルに挑戦するプーチン大統領の基本戦略を詳論している。著者は、プーチン大統領の将来設計は10の原則に基づいており、最終的な狙いは「アメリカの弱体化はロシアの安全保障を高める」ことにあると主張する。

ただ本書の大半は中東やロシア周辺国の分析に費やされ、豊富な情報を提供してくれているが、米対露中の「新冷戦」の分析において特に目新しいものはない。ドル基軸は米国の石油支配をベースとするという理解も浅薄である。本書の最後に資源株の推奨があり、馬脚を現した感もある。何より書名の『コールダー・ウォー』は誇大である。

著者
マリン・カツサ(Marin Katusa)
米ケイシー・リサーチセンター・エネルギー部門主任研究員。加ブリティッシュコロンビア大学卒業。エネルギー産業に特化した投資ファンドマネジャーとして成功を収める。資源開発現場に飛び、最新情報に強い。「ケーシー・エネルギー・リポート」を執筆。

 

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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