ソフトバンクは「本業が不明」だから強い? 孫正義が勝ち続けるたったひとつの理由

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実はこの、「自社が優位性を獲得できる可能性のある新しい市場を探索し選択」するということは、創業直後のベンチャー企業ならどこでもやってきている。言うまでもなく、あらゆる市場には、すでに巨大な大企業が存在しており、一般的な企業戦略論が言うような、「自社の強みと弱み、競合他社の強みと弱みの分析に基づいて」企業戦略論を立てていたら、ほとんどのベンチャー企業が、そもそも起業しないほうがマシということになってしまうからだ。

たとえば、現在ではソフトバンクの本業となっている通信事業も、2001年の参入当時の競合は日本最大級の企業であるNTTであり、当時のソフトバンクにとって「自社の強みと弱み、競合他社の強みと弱みの分析に基づいて」考えれば、到底、勝ち目はなかった。だが、「自社が優位性を獲得できる可能性のある新しい市場を探索し選択」することで勝機を見いだした。具体的には、通信事業の中でも規制緩和とテクノロジーの進化に伴ってできた新しいADSLという市場に集中したから、戦うことができたのだ。

世界中の経営資源にアクセスできる孫正義の交渉力

そして、いったん新しい市場の攻略を決めれば、孫正義は「その優位性を確立するためのヒト・モノ・カネ・情報の経営資源を、交渉によって短期間に調達し、一気にナンバーワンを目指す」。

ベンチャー企業はヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源が圧倒的に不足していることは当然だ。しかし、これは孫正義にとっては嘆くべきことではない。孫正義はこれらの経営資源を、卓越した交渉力で調達してくるからだ。

たとえば、日米の携帯電話会社の買収のため、世界中から巨額の資金調達を行う。また、有力な後継者としてインド人のニケシュ・アローラをリクルートする。このような大胆なアクションは、使える資金の前提を内部留保としたり、生え抜き人材を重視する自前主義の企業では取りえないアクションだ。その点、孫正義は、自分が使える経営資源は世界にあふれていると思っているのではないか。

そして、こうした経営資源を全世界から調達してくる力こそが、孫正義の交渉力なのだ。孫正義の未来に対するビジョンやビジネスモデル、経営数値への深い理解も、すべてが交渉力として結実している。この交渉力こそ、経営資源を持たざるベンチャー企業としてのソフトバンク躍進のたったひとつの理由なのだ。

三木 雄信 トライオン代表取締役

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みき たけのぶ / Takenobu Miki

1年で"使える英語"をマスターする「One Year English プログラム」"TORAIZ"を運営するラーニングテクノロジー企業 トライオン株式会社代表取締役。1972年、福岡生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経てソフトバンクに入社。元ソフトバンク社長室長。マイクロソフトとのジョイントベンチャーや、ナスダック・ジャパン、日本債券信用銀行買収、およびソフトバンクの通信事業参入のベースとなったブロードバンド事業のプロジェクトマネジャーを務める。現在は、東証一部やマザーズ公開企業のほか未公開企業の社外取締役・監査役などを多数兼任。プロジェクトマネジメントや資料作成、英語活用などビジネスコミュニケーション力向上を通して、企業の成長を支援している。著書に『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても英語は1年でマスターできる』『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』などがある。

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