介護施設の再建を阻む震災と債務の二重苦

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だが、シニアガーデンの場合も、既存施設の借入金返済が大きな問題だ。個人からの借入金は現在、返済猶予を受けているが、毎月30万円近い銀行借り入れの返済を続けている。東電から中小企業向けとして仮払金250万円を受け取ったものの、被害の補償については見通しが立っていない。

「いつ、元の施設に戻ることができるのか、できないのかを早く示してほしい。土地を買い取ってくれるのであれば、国や東電は早く青写真を示してほしい」と管理者の洋子氏は語る。

自らも介護施設を運営する森重勝・福島県認知症グループホーム協議会会長は「小規模事業者が多いグループホームは今のままでは、早晩成り立たなくなる。独立行政法人福祉医療機構が既存債務を買い取ったうえで、長期の低利融資に切り替えるなど、新たな仕組みが必要」と指摘する。

福島県広野町の特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」では、原発事故を機に職員全員が避難してしまったために休止を余儀なくされている。広野町が屋内退避区域(現在は緊急時避難準備区域)に指定されたことにより、高齢者37人を3月20日に機動隊のバスで栃木県宇都宮市内の介護施設10カ所に移送した。その際、数名の高齢者があばら骨や足を骨折。一人が搬送後に亡くなった。現在、遠藤行信施設長が、入所者がいない建物の中で、自宅待機中の職員からの相談や事務作業に従事している。

10年4月オープンの花ぶさ苑でも現在、借入金の扱いは最大の難題だ。当初の計画では、開設後2~3年で黒字化させ、7億円の借入金を20年かけて返済する予定だった。しかし、施設再開のメドが立たないうえ、再開したとしても、原発近くの立地で再度スタッフを集めることは難しく入所者が戻ってくる保証もない。

介護事業者の困窮は刻一刻と深刻化している。今のままでは、再建できる事業者も早晩、力尽きてしまう。国は早急に実効性のある支援策を打ち出す必要がある。

(岡田広行、麻田真衣 =週刊東洋経済2011年7月16日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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