ウクライナが「守勢」を余儀なくされている理由 「勝ちすぎ」を恐れたバイデン政権の思惑が裏目に

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この「勝ちすぎ」について、バイデン氏は具体的にどういう状況を懸念していたのか。軍事的に追い込まれたプーチン政権が核兵器の使用に踏み切る、あるいはプーチン政権が倒れ、ロシア国内の政治状況が大混乱に陥る状況を念頭に置いていたのではないか。

いずれにしても、アメリカ政権は「勝ち過ぎ」を恐れるあまり、戦況のゲームチェンジャーとなりそうな強力な兵器供与には慎重姿勢を貫いてきた。

この結果、ゼレンスキー政権が反攻作戦成功の決め手として求めたF16戦闘機や「コンクリート・クラッシャー」との異名を持つ射程300キロメートルの単弾頭型地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与は本稿執筆時点でまだ実現していない。

必要なすべての武器を供給していれば…

では、現在の戦況に照らしてアメリカ政権の戦略をどう評価すべきなのか。結果的には、戦場では「勝ち過ぎ」どころか、ウクライナ敗北の可能性まで議論される状況が生じている。明らかに、バイデン政権のこの「勝ち過ぎ回避戦略」は裏目に出たと判断する。

ウクライナ問題に深く関与しているアナス・フォー・ラスムセンNATO(北大西洋条約機構)前事務総長も、基本的に同じ意見だ。

アメリカのシンクタンクとの最近のインタビューで、こう語った。「仮にアメリカが、ウクライナが必要とする武器をすべて供与していれば、反攻は大きく進展していたはずだ。これは西側の責任だ。武器供与でウクライナの必要性を満たすのに、あまりに躊躇し過ぎた。この間、プーチンはこれに付け込んだ。ロシア軍は防御態勢を強化した」と。

このため、アメリカの今後の動きの注目点は、バイデン政権がこれまで「勝ち過ぎ回避」の方向に振り過ぎていた支援戦略の振り子を、ウクライナ軍へのテコ入れ強化の方向に切り替えるか否か、だ。

2024年秋に再選をかけた大統領選を控え、バイデン氏にしてみれば、ウクライナ軍がロシア軍に押しまくられる事態は避けたいからだ。

その意味で、注目されるのが、先進7カ国(G7)首脳が侵攻開始から丸2年となる2024年2月24日に開いたテレビ会議後に発表した首脳声明だ。この中で声明は「われわれは、ウクライナ国民が将来に向けた戦いで勝利(prevail)できるよう保証できると確信している」と「勝利」に言及したのだ。

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