開戦2年、写真家が見た「ウクライナ前線の街」の今 ロシアによるウクライナへの侵攻から2年

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ウクライナ兵のアレクサンドル・バレリエビッチ (写真:筆者撮影)

その日、筆者とつきあいのあるウクライナ兵、アレクサンドル・バレリエビッチ(47)についての情報が知人から届いた。「アレクサンドルがアウディーイウカの"隠れ家を調べている"」とのメールだった。どうやら隠れ家とは、コークス工場のことのようだ。彼はそこを「調べて」、ウクライナ兵全員を無事に撤退させる任務についたのだ。

開戦直後、マリウポリで結成された内務省傘下の部隊、アゾフ連隊に入隊したアレクサンドル。昨年はスナイパーとしてバフムートの周辺で戦った。戦闘中に倒れた仲間に鉤縄を投げ、たぐり寄せた体験を筆者は聞いていた。

戦闘で命を落としたウクライナ兵は3万人を超え…

脱出経路が限定されたアウディーイウカで、友軍を救出する作戦は困難を極めた。CNNの報道によると、重傷を負ったウクライナ兵が取り残され、ロシア兵に殺害されるケースもあったという。避難車両も砲撃を受け、アウディーイウカ周辺の道にはウクライナ兵の遺体が多数あったそうだ。

ドネツク州の前線地帯。塹壕を出たウクライナ兵が榴弾砲の発射準備を始めた。(写真:筆者撮影)

2月22日、アレクサンドルと会うためアウディーイウカから40キロメートル離れたポクロフスクに向かった。ここは脱出した兵士の避難先となった街の一つだ。道は車両であふれている。店には兵士の姿が目立つ。リサーチャーがアレクサンドルに電話すると、彼はこう話したという。

「いまアウディーイウカの近くで活動中だ。具体的な場所は言えない。精神的にまいっている」

ロシアによるウクライナへの侵攻から2年。ウクライナの市民団体が調査したところ、戦闘で命を落としたウクライナ兵は3万人を超え、負傷者は10万人に上るという。ロシア軍の捕虜になった兵士は、アウディーイウカの陥落で1000人近く増加した。

尾崎孝史氏によるウクライナのレポート。過去一覧はこちら
尾崎 孝史 映像制作者、写真家

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おざき たかし / Takashi Ozaki

NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。

著書に『汐凪を捜して 原発の町 大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。

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