企業価値向上に直結する「ブランディングの本質」 NECが示す「社会価値創造型企業」の姿とは

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CDO勝沼氏
2022年度決算発表後の昨年5月から株価の上昇基調が続くなど、NECに対するマーケットの評価が高まっている。要因の1つとして挙げられるのが、増収増益を続ける各事業の堅調さに加えて、経営の中枢にブランディングの観点を取り入れた、活発な企業活動の発信だ。従来の顧客だけにフォーカスするのではなく、社内外のあらゆる接点をタッチポイントとして考え、「ブランディング&メッセージング機能」を統括する、同社初のチーフデザインオフィサー(以下CdO)勝沼潤氏に、経営戦略と密接に連携したブランド戦略における、企業価値向上に向けた取り組みについて聞いた。

ブランド戦略成功のカギ「3つのプロセス」

――2022年度決算発表後から、NECへのマーケットの評価が高まっています。CdOの立場から、どのような取り組みが要因として挙げられるとお考えでしょうか。

勝沼 NECは今年で125年目を迎えます。時代の流れに合わせ、提供するサービスに変化がありつつも、テクノロジーを軸に世の中のミッションクリティカルを支える姿勢は、創業以来一貫して変わっていません。

そこでNECが、目まぐるしく変化する社会に高い価値を提供し続ける「社会価値創造型企業」であるために、私たちが果たせる役割をしっかりと定めて打ち出していく必要があると考え、取り組みを進めてきました。その一連のプロセスにおいてカギとなるのが「経営戦略と密接に連携したブランド戦略」です。

CDO勝沼氏インタビュー
NEC
コーポレートエグゼクティブ
チーフデザインオフィサー
勝沼 潤氏 プロフィール

 ――ブランド戦略が効果を発揮するために、重要となるポイントはどのようなところにあるのでしょうか。

勝沼 私のバックボーンはデザイナーですが、デザインにおいて重要なのは「いかに本質を引き出すか」という点にあります。「本質」を引き出し、伝えるべき「メッセージ」を研ぎ澄まし、明確に美しく「表現」する。この3つのプロセスをつないでいくことで、提供価値が生まれます。

これを企業経営に当てはめると、「本質」は企業の姿勢です。姿勢を定めて、一貫性と独自性のある「メッセージ」を研ぎ澄まし、それを「表現」し、発信していく。つまり、企業の姿勢を定めて一貫性と独自性のある発信を行うことで、企業価値を高めていくことが経営において重要だと考えています。NECのブランディング活動においても、この点を意識して推進しています。

ブランド力を高め企業価値を向上させる「CdOの役割」

――NECのような大きな企業で企業の姿勢を定めて、一貫性と独自性のある発信を行うのは難しいと思いますが、どのように対応されているのでしょうか。

勝沼 従来、ブランド戦略はマーケティング部門にひも付いていました。これはとくにBtoCビジネスを展開している場合は、有効に機能する体制だと思います。しかしNECの場合、一般生活者の目には見えにくい多彩な事業を展開しているので、すべての部門が全体戦略に基づいて一貫性のある打ち出しをしていくべきだと考えました。

2021年と2022年の経営・ブランド戦略比較図

「無形の経営資源」であるブランドの価値を向上させるためにまず取り組んだのが、経営戦略とブランド戦略を密接に連携できる組織づくりです。その一環として、2022年にコーポレートブランディング部を新設し、コーポレートコミュニケーション部・コーポレートデザイン部とともに、経営企画部門の中に位置づけました。この3つの部を「ブランディング&メッセージング機能」とし、チーフデザインオフィサーである私が統括しています。

組織図

NECのブランド力を高め、企業価値向上を目指すことが私たちのミッション。「私はこういうブランドです」ではなく、受け手側が「あなたってこうですよね」というパーセプション(認識)をどうつくるかが、ブランディングだと考えています。それが市場の期待や顧客の信頼に応えることでもあり、社員の誇りや未来の仲間の憧れにもつながっていくからです。

――従来の体制を大幅に刷新するに当たっては、社内調整が難航することも往々にしてあるかと思います。提言がスムーズに受け入れられた理由については、どうお考えでしょうか。

勝沼 ただ提案するだけで理解を得るのは難しかっただろうと思います。その際、バックボーンであるデザインの考えを活用しました。「デザインを成功させるには、提供価値をしっかりと示した説明が必要」というのが私の考えです。そのためには、どんなに小さなことでも成功事例や成功のイメージを見せることが大切です。

私が幸運だったのは、入社後すぐにCEOの記者会見のお手伝いができたことです。記者会見は、まさに企業の姿勢を伝える機会ですので、ブランディングする意義と期待できる効果を説明しました。

まったく同じ言葉を発するとしても、伝え方によって受け手の印象は変わります。その印象を、定めた企業の姿勢にいかに近づけるかがブランディングのポイントの1つですが、この会見はお客様やメディアからも注目され、CEOにデザインを活用したブランド向上の価値を認識してもらうことができました。そういった小さな成果を積み重ねていったことで、社内に受け入れられたのだと思っています。トップを含めたステークホルダーとどんなコミュニケーションをしていくかは重要なポイントです。

事業成長へのヒントを示し、指針となる企業へ

――ブランド力の向上を目指して具体的に取り組んでいることと、成功事例について伺いたいです。

勝沼 IR発信などのコーポレート、事業やマーケティング、人事など幅広い企業活動に関わっています。例えばコーポレートの発信では、世界最大級のモバイル展示会「Mobile World Congress(MWC)Barcelona 2023」のキーノートでのCEO登壇において、伝えるメッセージの内容から、プレゼン資料のグラフィックまで、ブランディング&メッセージング機能のメンバーが対応しています。また2025年までの中期経営計画で策定した「NEC 2030VISION」でも、ストーリーづくりからビジュアライゼーションまで携わっています。

森田CEOのプレゼン
2023年2月27日から3月2日まで開催された「Mobile World Congress(MWC)Barcelona 2023」のキーノートでプレゼンする森田隆之CEO ※森田隆之氏の正式表記はこちらをご参照ください。

また社外向けの発信だけでなく、インターナルブランディングにも力を注いでいます。とりわけ重要視しているのは人事部門との連携です。企業活動の主体はやはり人。社内では、NECグループが共通で持つ価値観であり、行動の原点となる考え方をまとめた「NEC Way」の浸透を進めています。どんなマインドセットを醸成していくかでカルチャーも変わっていきますし、それが結果として世の中ににじみ出て、NECのブランドとなっていくと考えているからです。

――今後のブランド戦略における展望について教えてください。

勝沼 引き続き、ブランド価値を高めて企業価値向上につなげていくことを、しっかりとやっていきます。そこで重要になるのがPurposeです。NECのPurposeは「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します」です。つねに一歩先んじて世の中を描き、先進のテクノロジーを活用して社会変革を起こすことで、このPurposeを具現化していきます。

これらの私たちの取り組みが、多くの企業の事業成長へのヒントとなればうれしいですね。企業価値向上への指針を示す「社会価値創造型企業」として役割を果たすべく、さまざまな取り組みを進めていきたいと思います。

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