電力自由化で激突する東電vs新電力の勝敗 卸取引所拡充なら新電力のシェア2割超も

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その意味で、東電など大手電力の発電、燃料調達の力は今のところ圧倒的だ。しかも、東電が中部電力と4月末に設立した合弁会社JERAは、発電所新設・更新と新規の燃料調達を統合するもので、規模のメリットを生かして、さらなる競争力強化を目指している。2017年に判断する既設発電所の統合に瓦解リスクが残るが、もし完全統合すれば、利益率の高い上流部門で寡占状態を築くことができる。いわば上流の力で下流の新電力を支配する形だ。自由化先進国のドイツでも上流部門は上位4社の寡占状態。一方、下流部門の小売りは「シュタットベルケ」と呼ばれる、市町村単位の地域エネルギー会社約800社が全シェアの過半を占める状況にある。

新電力拡大を後押しする卸取引所の拡充

もう一つ、新電力の勢力拡大と競争を促す要因がある。それが、業界内で「玉出し」とも呼ばれる、大手電力による卸電力取引所への電力放出だ。

エネットの池辺社長は、「大手電力会社が持つ電気の30%ぐらいは義務的に卸電力市場へ出すような仕組みにしてもらいたい。卸電力市場を活性化させることが、電力システム改革での競争促進につながる」と主張し続けている。卸電力取引所の取引量が拡大すれば、新電力は市場価格での電源調達が容易になり、小売り拡大の余力を一気に高められる。

今後、原発が再稼働し始めて電力需給が緩和すれば、放出義務化に対する新電力の要求は一段と高まるだろう。最終的には経産省の胸三寸とも言われるが、「新電力の小売りシェア2~3割を数値目標に、経産省が強制的な玉出しに動くのでは」(業界関係者)との臆測もある。

日本の卸電力取引所の未熟さは国際的に見ても異常。そもそも国策民営の原発をはじめ、大手電力の大規模発電所は公的性格が強い。放出義務化には十分、政策的意義がある。もともと国営で国内約850万キロワット(原発の約8基分)の発電能力を持つJパワー(電源開発)に対しても、卸取引所への大幅な放出拡大を求める声は大きい。

電力小売り自由化の目的は、競争促進によるサービス向上や料金の抑制、消費者の選択肢を増やすことにある。実質的な競争環境をどう整えていくか、課題はまだ残っている。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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