「兵士の命優先」で解任されたウクライナ軍総司令官 侵攻から丸2年、ウクライナ大統領が思い知った現実

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50歳のザルジニー氏は、旧ソ連からウクライナが独立した後に軍事教育を受けた世代出身だ。北大西洋条約機構(NATO)に派遣され、西側の軍事訓練を受けた留学組の第1期生となる。兵士の犠牲を極力少なくしようとする流儀が兵士本人や兵士家族から支持されていた。

もう1つの要因は、明るい人柄。周囲からの人望があった。2023年12月、国際社会学研究所(キーウ)による世論調査では、ザルジニー氏を「信頼する」との回答が88%に上った。一方でゼレンスキー氏を「信頼する」は62%で、2022年末の84%から大幅に下落したという。

反攻作戦の立て直しが理由

しかし実際は、ゼレンスキー政権にとってザルジニー氏解任は反攻作戦の立て直し、という純軍事的目的だった。声明でも大統領はこの説明に心を砕いた。

曰く「これは名前の問題でも、国内政治の問題でもない。軍のシステムやウクライナ軍の管理の問題である。ザルジニー氏との率直な意見交換の結果、緊急の変更が必要との意見で一致した」と強調した。

元々、大統領とザルジニー氏との間には2023年秋から信頼関係に亀裂が走っていた。2023年6月に始めた反攻作戦は当初の目標を実現できないまま難航した。

おまけに、2023年11月初めにイギリス『エコノミスト』誌とのインタビューで、ザルジニー氏が戦況について第1次世界大戦のような「陣地戦」に陥り、膠着状態に陥っているとの見解を表明したからだ。この見解に対し、ゼレンスキー氏は「膠着状態ではない」と否定してみせて、周囲を驚かせた。

この時期、クリミアでの黒海艦隊に対する攻撃や黒海での穀物輸出ルートの確保など、ようやく反攻が局地的に動き始めた矢先だった。東部や南部での反攻地上作戦が思うように進まない中、ゼレンスキー氏としてはこうした黒海での進展を政治的にも反攻の成果として内外に誇示したいところだった。

それなのに軍トップのザルジニー氏が大統領の立場にお構いなしに「膠着状態」と言い切ったことが不満だったようだ。2023年末には、記者会見で大統領は東部や南部での地上作戦が難航しているのはザルジニー氏と参謀本部の責任だと言い切るまでになっていた。

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