「イギリス郵便局冤罪事件」に揺れる富士通の苦悩 問題子会社は「現地任せ」で統治不全の声も

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富士通は、独立機関の法定調査で大きな方向性が見えるまでは、イギリスの公共ビジネスへの新規入札を控えることも明らかにしている。

入札不参加の影響について会社側は会見で具体的回答を控えたが、海外はそもそも利益貢献が乏しいことや、現地の事業モデルからして、富士通全体に与える影響はそこまで大きくなさそうだ。

SMBC日興証券の吉積和孝氏は富士通のイギリス事業について、「パブリック向けが主体とはみられるが、多くは(既存契約からの継続収入が中心の)マネージドインフラサービスとみられ、仮に新規受注が停止した場合でも、同社全社に与える影響は短期的には限定的だと考える」と分析する。

調査が終わるまで「喉に刺さった骨」に

もっとも、法定調査にメドがつき、“富士通が負うべき責任”の中身が見えてこない限り、この問題は「喉の奥に刺さった骨」として残り続けることになる。

横領罪などでの郵便局長訴追に関わったポストオフィス、同社に100%出資するイギリス政府、そしてシステムを提供していた富士通――。責任の所在をめぐる線引きは難しい。

世論の怒りを前に、総選挙を控えた現地政治家たちの思惑も絡み合う中、富士通が「スケープゴート(生贄)にされている」(大手ITベンダー幹部)との見方も多い。

富士通は身動きを取れないまま、情勢を注視するしかない状況が今後しばらく続くと見込まれる。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞東京本社の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、ITベンダー業界を中心に取材。情報通信、メディア、都市といったテーマに関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んでいた。

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