FRBの利上げ実施後、日銀は枠組みの修正を 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く

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来春には政府がタオルを投げる

2%の「物価安定の目標」の実現は政府との政策協定だが、安倍政権は来年夏の参議院選挙をにらみ、来年春にはアベノミクスの成果をアピールするためにも、「デフレ脱却宣言」を出したいはずで、日本銀行にタオルを投げる(=金融政策を修正する機会を与える)のではないか。

その時に意固地にならずに、「物価安定の目標」の解釈を柔軟化し、欧米主要国の中央銀行のように「フレキシブル・インフレーション・ターゲット」へと修正すればよいと思う。すなわち、景気循環に応じて消費者物価の前年比上昇率を柔軟に1〜2%のレンジで推移させることを目標に金融政策を行う、という考え方だ。潜在成長率が0%台前半と先進国で最も低い日本が、2%の物価目標にこだわること自体に無理がある。

――黒田総裁は昨年10月の追加緩和と引き替えに政府に財政再建を求めていたと思います。ですが、消費税率の再引き上げは先送りされて、財政再建も厳しくなっています。

大変心配している。「骨太の方針」が今月下旬に出されて、財政健全化の方針も示されることになっている。だが、安倍首相は2020年度のプライマリーバランスの黒字化が今のままでは難しいことについて、問題を先送りしてしまった。17年4月の消費税率10%への引き上げと成長頼みでがんばって、18年度に財政赤字をGDP比1%に引き下げて、その後、経済情勢をみながら財政健全化策を改めて検討する、としている。

このような状態で、日本銀行がバランスシートに大量の国債を持ったまま、長期金利がじわじわと上昇していくと、日本のソブリン格付けが今のシングルAフラットから、シングルAマイナス、さらにBBB格へと下がっていくリスクがある。そうなると日本の信用のみならず、民間金融機関がドルを調達するコストが上昇してたいへんな問題になる。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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