シングルマザーを悩ます「かわいそう」の視線

収入とキャリアがあっても「弱者」?

神奈川県のマンションに6歳の息子と暮らす田村千夏さん(仮名、32歳)は、転職活動を通じて、自分がシングルマザーであることを実感したと話す。

専門学校の講師を務めながら、空いた時間で人気の飲食店でも働いている田村さん。息子の小学校入学を機に、より自宅から近い職場に勤めたいと飲食店に変わる事務系の仕事を探すべく現在、求職活動中だ。

離婚したのは1年前。通勤ラッシュが嫌いな地方出身の元夫が「地元に帰って暮らしたい」と言い始めたことがきっかけだった。

「両親は東京におり、自分の仕事もあったので、首都圏から離れて暮らしていける自信はありませんでした。ただ、元夫にとって都心通勤がストレスになり苦しんでいるのもよくわかっていたので、では離婚して、お互い自分の価値観に合った暮らしをしていこうと話は進んでいきました」

離婚してからも、元夫が購入したマンションで暮らしているため、居住環境や仕事環境に大きな変化はない。しかし、転職活動を始めたことで、自分は変わらなくとも”周囲の目”は大きく異なるのだと痛感することになった。

派遣会社の担当者にシングルマザーだと伝えると、相手の表情がとたんに曇るという経験が数回あった。そして必ず「あなたの身に何かあったときに、ほかに頼れる大人はいますか」と聞かれる。「同居している大人はいない」と答えると、さらに不安げな表情を浮かべ「それは心配ですね」と話が止まってしまうのだという。

「結婚していたころから環境面での変化はほとんどないうえ、シングルマザーになった今のほうが働くモチベーションは高くなっているのに、『何かあったら心配だから』と、私よりも先回りして不安視され、その後、仕事の紹介が進まなくなります。少し考えの古い年配の男性担当者ならまだしも、年齢が自分とほとんど変わらない女性担当者から言われると、シングルマザーというだけで、“余計なお世話でしかない心配”をされてしまうのかと落胆してしまいます」

数多くの母子世帯にとって、貧困問題が深刻化していることは確かだ。だが、収入もキャリアもあるワーキングマザーにとって、離婚の痛手は必ずしも経済面にはない。それでもなぜか世間からは「弱者」として扱われることに違和感をおぼえざるをえないと彼女たちは訴える。

日常生活に大きな変化はないが

仕事をしていれば、母親はただでさえ時間に追われる毎日だ。新垣さんの元夫は、家事や育児に積極的に参加するタイプではなかったため、離婚後もその日常生活に大きな変化はない。だが、2人暮らしになって初めて気がついたことがある。「子どもを見ている大人が私ひとりという環境では、『週末に少しだけ会社に行って仕事を片付けたい』『病院に行きたい』といった何げない用事を済ませることがとても難しい。大人がもうひとりいるという安心感は、実は大きかったんです」。

新垣さんは、子どもが小学校に入る来年には、今のマンションから電車で1時間ほど離れた実家に戻ろうと検討中だ。離婚後に都内のマンション暮らしを選んだのは通勤の便を考えてのことだった。だが、「実家に戻ることで私に余裕が生まれれば、子どもがもっとのびのび過ごしてくれるんじゃないか。今はそんなことを期待しています」と新垣さんは言う。

頼れる実家があり、子育てをしながらでもやりがいのある仕事に思い切り打ち込めるという環境に恵まれているシングルマザーは少数派だろう。だが、そんな少数派の悩みこそ周囲からの理解を得にくいのかもしれない。

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