川崎重工は「世界のヘリメーカー」になれるか UH-Xが日本のヘリ産業の将来を決める

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筆者は、ヘリ産業の振興を考えた場合、川重案のほうが合理的だと考えている。そもそも防衛省の各種資料ではUH-Xは「内外の市場で売れる機体を欲している」ことが読み取れる。たとえばUH-Xに関する「平成26年度 政策評価書(事前の事業評価)」で、「UH-Xの開発については、国内企業と海外企業が共同で行う民間機の開発と並行して事業を進めることにより、防衛省が負担すべき開発経費及び量産・維持経費の抑制を図る」としている。

また、ある防衛省の高官は「内外の民間市場で売れないものは採用しない」と明言している。その意味でも、川重案が有利だ。

うまくいけば世界で販売できる

川重案はこれからエアバスヘリと開発する機体であり、現在同社がエアバスヘリと共同生産しているBK117と同じようなスキームで開発・生産されるようだ。ベースとなるX9はBK117と、これまた新たに開発される5トンクラスのX4の中間になる機体であり、民間や官公庁などでも多くの需要が見込めるだろう。まったくの新型だが耐空証明や型式証明の取得もエアバスヘリのノウハウが活用できる。うまく育てばBK117同様に、長年にわたって世界中で販売が可能な機体になる。しかもパートナーは世界最大のヘリメーカーで、営業力も期待できる。そうなれば民間市場への日本ヘリ産業の再参入の第一歩となる。

つまりUH-Xの開発に税金を使ってもそれ以上のリターンが期待できる。また内外の市場で多く売れれば、より多くの社員を雇用し、税金を払い、そしてより多くの研究開発費を再投資することができる。自衛隊向けの生産だけではそれらがまったく期待できない。

ちなみに防衛省はではUH-Xの派生型として武装を施した軽武装偵察ヘリの調達も視野に入れている。これは攻撃ヘリAH-1S、AH-64D、そして、OH-1の後継とされている。これが実現すればUH-Xシリーズの調達数は、200機を超えることになる。十分な機数の調達となり、内外市場への販売の成功の可能性をより高くする。

対して富士重工の案の412EPの改良型は、既存機の改良型でリスクが少なく、基本的に陸自のUH-1シリーズの派生型であるので機種転換や訓練などは容易だというメリットがある。だが、世界中に売れる機体ではない。すでにUH-1バリエーションは多く世界でライセンスされ、新型機体の一部に過ぎず、特にセールスポイントはない。ベル社があまり熱心にセールスするような機体ではない。しかもそのベル社の現在の親会社はテキストロン社だが、身売りが噂されているような経営状態だ。

またUH-1の設計は極めて古く、今後何十年も売れ続けるとは思えない。しかもUH-1のキャビン後部のギア・ボックスの凸が張り出しており、キャビンの使い勝手が悪い。これも基本設計が古いためだ。これらの点からも富士重工案の機体が国内外で売れるとは思えない。

市場で売れなければ今まで同様に自衛隊専用機となり、ヘリ産業の振興には役に立たない。

筆者は国内のヘリ産業の振興という面では川重案を推したい。それは前述のように国内外での潜在的なセールスの可能性が大きいためだ。またこれが、同時に日本のヘリメーカーの再編に火をつけることになるだろうからだ。現在最も多くのヘリを生産、開発しているのは川重である。共同開発のBK117のほか、多々問題があったとはいえ自力でOH-1を開発している。またH-47、MCH-101などの大型ヘリをライセンス生産するなど、最も多くのヘリを生産しており、事業規模が大きく技術力も高い。

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