(第4回)低価格製品シフトは製造業を衰退させる

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仮に賃金水準が日本の5分の1であれば、雇用者所得は1・3で営業余剰は7・4(=2+6・7−1・3)になる。したがって、売上高に対する利益率は22%になる。また、賃金水準が日本の2分の1であれば、雇用者所得は3・3で営業余剰は5・3になり、売上高に対する利益率は16%になる。これらの結果と比較すると、現実の値である6・5%は低すぎるということになる。

なお、以上の計算を一般化すれば、次のような結果になる。

(1)国内では100の産出額に対して、雇用者報酬が20で営業余剰が6、(2)産出額に比例して雇用者報酬と営業余剰が縮小する、(3)中国の賃金率は日本のb分の1、(4)雇用者報酬の圧縮分を営業余剰に回せる。以上の仮定の下では、中国生産の売上高利益率は、(26−20/b)%となる。

現実の海外生産利益率がこのモデルの結果より低い値となってしまうのは、「産出額の縮小に比例して雇用者報酬と営業余剰が縮小する」という(2)の仮定が現実には成立しないからだ。

高価格製品の場合と同じ生産設備を用いて低価格製品を生産すると、固定費は比例的には縮小せず、したがって産出物価値に対する付加価値の比率が低下するのであろう(実際、資本減耗は産出額の価値によらず一定と考えられる)。

その意味で、低価格製品は効率の悪い生産なのである。そのため、低賃金国で雇用者報酬を圧縮できても、利益率が高価格製品よりは低下してしまうのだ。それにもかかわらず、現実に売り上げが伸びている地域は、1人当たり売上高が最も低い「その他アジア」である。つまり、日本の製造業は、これまでよりさらに、低価格製品にシフトしつつある。

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