「カラオケまねきねこ」苦境から華麗に復活した訳 コロナ禍の真っ只中に虎視眈々と「仕込み」

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さらに言うなら、歴史あるフランチャイズチェーンであるやきとり大吉は、鳥貴族が今後の従業員のモチベーションを維持しつつ、成長し続けるための極めて有効な「装置」となる可能性を秘めている。

年代を経て小規模加盟店の事業承継問題が想定される大吉という店舗網は、将来、鳥貴族の従業員が独立して一国一城の主となるための受け皿を構成することにもなるからだ。居酒屋という労働集約的で厳しい労働環境の中で、優秀な人材がモチベーションを保つためには、いつか自分の店を持てる、さらには複数店のオーナーとして事業拡大の可能性もある、という目標が必要だろう。

この目標を支援し続けることで、鳥貴族はグループとしての成長が持続可能なシステムを構築しようとしているのである。こうしてコロナ禍の時期をアフターコロナの成長の準備期間とした鳥貴族は、コロナ明けの直近期において、着実な業容拡大を実現しつつあり、ゆくゆくは外食業界の大手クラスとなりうる礎を築いたと言っても過言ではあるまい。

ほぼ確実にやってくる環境変化に賭けられるか

コロナ禍の期間に、積極的な攻めの姿勢を失わなかったコシダカや鳥貴族は、3年半ほどの災厄が過ぎた後、確実に業界トップクラスとなる基盤づくりに成功した。一過性の逆境はいつか過ぎ去ること、収束後に自社の事業の社会的意義が保たれること、を信じ続けた両社はこの賭けに勝った。

この賭け、実は考えてみれば、当たり前の結末であり、パンデミック環境が永遠に続くと考えた人は多分いなかったはずなのだが、その当たり前を信じて賭けることができる人は多くない。

将来予測をすることは難しいが、例えば、人口8000万人の高齢化した日本、自動運転、6Gインフラ、などのような、ほぼ確実にやってくる環境変化はいくつもある。そんな、ほぼ確実な将来予測に対して、実際に布石を打つのか、「わかっているけど……」とするか、で運命は大きく変わる、ということなのだろう。

中井 彰人 流通アナリスト

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なかい あきひと / Akihito Nakai

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年同行を退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、慶應藤沢イノベーションビレッジでベンチャー支援活動を開始、近年は地方創生支援活動も実施中。並行して、流通関連での執筆活動を本格化し、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+ITなどで執筆、連載中。

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