産後ケアの伝道師、マドレボニータの挑戦 グーグルが期待を寄せる女性支援活動とは?

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運動だけでなく、参加者同士が、普段なかなか他人と話すことのないテーマを共有するのも、マドレボニータならではの特徴だ。

①の「産後のボディケア&フィットネス教室」(1クール4回)は、ボールエクササイズによる「有酸素運動」、自分の思いを言葉に出してわかちあう「シェアリング」、そして「セルフケア」で構成されている。

特筆すべきは、体のケアだけでなく、心のケアである「シェアリング」を重視していること。具体的には、参加者同士が「人生」「仕事」「(夫との)パートナーシップ」の3つをテーマにしたコミュニケーションを行っている。

「出産によってこの3つが大きく変化するのに、じっくり話す機会がほとんどない。だから、ひとりでみな悶々と悩んでいる。カウンセラーと1対1で向き合うのはしんどいし、誰もがそうできるわけではない。でも、運動をして汗をかき、首にタオルをまいたような状態だと、自分のことを話すのは“勢い”でできたりする。その場で泣いても癒やされるみたいなグループ効果もある」と吉岡氏。

ここからスピンアウトした活動が、NECの協賛を得て2006年にスタートした「NECワーキングマザーサロン」だ。「母となって働く」をテーマに参加者がともに考え、語り合うワークショップとして確立されており、2014年までの累計参加者は5000人を超えている。 

ITを活用したリモート運営でもパイオニア

マドレボニータ代表、吉岡マコ氏

①の教室、受講者を拡大するうえでカギとなるのが②のインストラクター養成だ。単なるエクササイズだけでなくコミュニケーションワークを取り仕切る役割もあるため、一気に育成することが難しいのが悩ましいところ。しかし、今年は養成コースを1回から2回に増やし、2017年度には30人体制を目指している。

③の活動で今、力を入れようとしているのが“産後うつ予備軍”の調査研究だ。産後のヘルスケアに特化した教室という現場を持つ強みを生かし、「カウンセリングや投薬だけでなく、運動やシェアリング(コミュニケーションワーク)が役に立つことを提言できたら」と吉岡氏は期待する。

これまでもマドレボニータは、グーグルドライブ、グーグルカレンダー、ユーチューブなどをフル活用し、内部の情報共有やトレーニングを進めてきた。事務局スタッフは在宅勤務が基本で、8人中都内在住は3人だけというから驚く。あとは兵庫、奈良、長野、米国と住居地はさまざまだ。ITテクノロジーを活用すれば、働く場所を問わず仕事ができることを実証している。

気になるのはこれからの展開だ。「出生数約100万として、そのうち年間5万人のママが受講できれば、かなりの社会的インパクトを与えることができる。現在、啓発にはリーフレットを活用しているが、アプリを開発し、教室チケットをプレゼントできるような仕組みも考えている。マドレボニータのことをより多くの人に知ってもらい、社会全体で産後のママを支える機運を高めたい」(吉岡氏)。グーグルの助成金を生かし、活動をよりパワーアップすることができるのか。経営手腕にも注目が集まりそうだ。

高橋 志津子 東洋経済 記者

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たかはし しづこ / Shizuko Takahashi

上智大学法学部国際関係法学科卒。東洋経済新報社に入社後は、会社四季報、週刊東洋経済、ムック、東洋経済オンラインなどさまざまな媒体で編集・執筆を手掛ける

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