倍率77倍!中国で過熱する「公務員人気」の実情 海外への渡航も制限、それでも目指す理由とは

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大学院を修了して小学校や中学校の教師に就くケースは、すでに珍しくなくなっている。

2021年に湖南省の小学校教諭に就職した趙雪玲さん(仮名、29)は、地方政府の「名門校出身者招聘プロジェクト」の枠で採用された。趙さんは北京大や清華大など国内39大学から構成される「985工程」のリストに入っている有名大学院を修了したため、招聘プロジェクトへの応募資格があったという。

中学から日本語を学び、中堅大学の日本語学科に進学、3年生途中で日本に1年間交換留学した趙さんの夢は、ゲーム関連会社に就職することか、小さな店を開業することだった。

「日本のゲームやドラマを見て育ったから、自由でクリエイティブな仕事に憧れていた」

2018年春に交換留学から帰国し6月に卒業したが、帰国から卒業までの期間が短かったため、思うように就職活動ができなかった。「自分の卒業した大学では、いい会社に就職できない」とも考え、浪人して「985工程」入りしている大学院の日本語専攻に進学した。

大学院在学中もゲーム関連の仕事やカフェ開業の夢を持ち続けた趙さんだが、一足先に社会に出た同い年の友人らの話を聞いて、考えが変わったという。

「ゲーム企業は政府の規制で私が大学院を修了する少し前に不況に突入した。エンジニアだったらまだいいけど、日本語を生かした仕事だとキャリアの余地も限られている。カフェの経営はもっと不安定」

割り切って生活をしている

地元に戻って教師になると決めたとき、友人から「大学で勉強したことと関係ないじゃん」「あんなに自由に生きたいと言っていたのに」と皮肉を言われた。

趙さんは「あの頃は子どもだった。今の仕事は日本語は使わないけど、アニメやゲームなど趣味として楽しんでいけばいい」と割り切っている。

月給は手取りで5000元(約10万円)。実家から通っているので不足はない。趙さんもパスポートを職場に預け、海外旅行を制限されているが、コロナ禍の3年間は誰もが自由に出国できなかったから気にならなかった。

「共産党への入党準備も進めている。大学生のほうが党員になりやすいので、学生時代になっておけばよかったと思うけど。当時は自分の考えがこう変わると想像もしていなかった」

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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