「誰かを罰するのは当然か」問う『失敗の科学』 ベテラン機長が"容疑者"になった航空機事故

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ノベンバー・オスカーは進入経路を修正し、無事にヒースロー空港に着陸。機内には乗客らの拍手が響いた。

間もなく事故調査が行われた。その後の報告によれば、あとほんの60
インチ(約1.5メートル)降下していたら、機体はホテルに突っ込んで、イギリスの航空史上最悪の大惨事になっていたという

しかし事故から18カ月後の1991年5月8日。ロンドン西部のアイズルワース刑事法院において、機長は、「過失により旅客機とその乗客を危険に陥れた」として有罪を宣告された。

ベテランのパイロットが犯罪者となった瞬間だ。しかし実際は何があったのだろう?

詳細を知ると見方が変わる

今度は詳細を追って見てみよう。

事故の2日前、モーリシャスでクルーたちは一緒に夕食をとってゆっくりと羽を伸ばしていた。だが2日後、次のフライトのためバーレーンに到着した頃には、大変なことになっていた。ほぼ全員が胃腸炎に見舞われていたのだ。

バーレーンからロンドンに向けて飛び立つ予定時刻は深夜0時14分。通常ならその時間まで仮眠をとるところだが、モーリシャスから着いたときはすでに夜遅く、そのままヒースローまで夜間飛行をするという強行スケジュールだった。しかも胃腸炎の症状も出ている。理想的と言うには程遠い状況だった。

強い向かい風でフライトの状況は最初から厳しく、燃料の消費は早かった。しかも離陸直後、副操縦士が体の不調を感じ始めてしまう。どうやら胃腸炎がぶり返したらしい。彼は薬をもらい、仮眠を取る許可を機長にもらった。

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