幹部逮捕で明るみに出たFIFA「不都合な真実」 結局モノを言うのはアレだった

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ブラッターは冷酷な経営者である。彼は、自分のことを発展途上の国々の擁護者であり、傲慢な欧米の国々からアフリカ、アジア、アラブ、南アメリカの人々を守っているのだと主張していた。

カネで動く貧しい国の人間が、遠い欧米の政治的・商業的関心から利益を得る時代は終わった。今や欧米の事業家、建築家、芸術家、大学学長、美術館館長など、カネがかかるプロジェクトに出資するために多額の現金が必要な人は誰でも、欧米以外の独裁者と取引する必要がある。

FIFAの最も腹立たしい側面

権威主義的な政権や不透明なビジネス上の関心に迎合していては、健全な組織とはいえない。裕福で非民主的な権力は妥協の産物であり、築き上げた名声に簡単に傷をつけてしまうだろう。

反帝国主義者の言葉を借りれば、独裁者やいかがわしい実力者と取引することは、もはやカネで動くということではなく、崇高なことだ。湾岸諸国に大学や美術館の営業権を販売したり、中国にもう1つ巨大なスタジアムを建設したり、ロシア、カタールでのサッカーの利益から資産を築き上げたりすることは、進歩的で、反人種差別的で、世界の友愛と普遍的な価値の勝利である。

これは、ブラッター会長が率いたFIFAの最も腹立たしい側面である。買収、票の購入、サッカー界のトップが国際的名声を得たがるばかげたありさま、メダルと装飾で膨らんだ胸。この世界ではすべて当たり前のことであり、人々の心を苦しめる偽善である。

世界の権力の移行や、欧米の中心から離れた場所での影響を嘆いても意味がない。この移行の政治的結果を正確に予測することもできはしない。しかし、FIFAの嘆かわしいストーリーから学べることがあるとすれば、どのような形の統治であっても、やはり物を言うのはカネだということだろう。

週刊東洋経済2015年6月13日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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