日立をV字回復させた「ラストマン」魂の言葉 川村隆・日立製作所相談役に聞く(前編)

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そして、世界では変化が次から次へと起こる。その状況に「対応していこう」という意気込みが、世界のほかの民族に比べると、日本人はちょっと弱いと思うのです。まだ「今の状況がずっと続くのではないか」と思っているフシがあるようです。

川村 隆(かわむら たかし)●日立製作所相談役。元取締役会長。1939年、北海道生まれ。1962年東京大学工学部電気工学科を卒業後、日立製作所に入社。電力事業部火力技術本部長、日立工場長を経て、1999年副社長に就任。その後、2003年日立ソフトウェアエンジニアリング会長、2007年日立マクセル会長等を歴任したが、日立製作所が7873億円の最終赤字を出した直後の2009年に執行役会長兼社長に就任、日立再生を陣頭指揮した。黒字化のメドを立てた2010年に社長を退任。2014年には取締役会長を退任し、現職。2010~2014年、日本経済団体連合会副会長。2014年からみずほフィナンシャルグループ社外取締役。著書に『ザ・ラストマン』(KADOKAWA)がある。

今のままでいけば、日本のエネルギー自給率は4%を下回り、おカネはどんどん外国へ出ていってしまいます。日本はいわゆる「貧乏国」に戻るわけです。それに、出生率も下がってくる。9500万人でなんとか止めようとして、盛んに取り組みをしていますが、それがうまくいかなければ、極端な話、総人口5000万人ぐらいの国になるかもしれません。

「そうならないようにしよう」という覚悟を持って、誰もが働いているのかどうか、ということが、あまりハッキリしないように思います。

今までも、現状維持で頑張ってきたつもりでも、右肩上がりになっていたものだから、「今後もこの延長がありえる。もしくはフラットな状況が続いていくのではないだろうか」と、思ってしまっている人が、ちょっと多い気がします。

私が「ラストマンになれ」と言うときの「ラストマン」というのは、簡単に言えば、「最終的な責任は自分で取る」という意識で、覚悟を持って仕事をしている人です。そのためには、きちんと、客観的に状況変化を把握しなければならないし、自分の頭で考えて戦略を練らなければなりません。そのうえで、周りにきちんと戦略を説明して、変化を恐れずに断固実行していく必要があります。

現状維持を目指すと衰退する

――なぜ「変化をしないといけない」のでしょうか

現状維持を目指すと、衰退します。だから、いわゆる「ラストマン」の心構えを持っている人が意思決定をして、変わり続けている世界に合わせて、「自分の組織体はどこを変えなければいかんか」ということを、考えていかなければなりません。

たとえば、デジタル機器を作るのが日本より上手な国が出てきてしまったとしたら、「○○の分野にもう一度おカネを投じて頑張るから、その分、△△は少し圧縮して、別の分野に人を使っていこう」――といったことは、その組織のラストマンが考えないといけません。

昔はそれを、日本の中だけを見て考えていればよかったのですが、今は違います。日本以外の人がデジタル製品を組み合わせて作るのがうまかったり、速かったりするわけですから。そのような変化が外で起きているときに、ラストマンがパッと考え、決断していかないといけません。

「これはもう、変えないといけない」「今のままで静かにやっていくのが組織の人としてはいちばんうれしいかもしれない。でも、ちょっと血が流れるかもしれないけど、組織を今の3分の1ぐらいに小さくして、物流も小さくして、本当に日本人向けの超高級品だけ作るぐらいにまず小さくしようか」……など。あるいは「全部やめようか」「その人たちはこっちの領域に注力してもらおうか、こんな成長製品があるから」というように、自分の頭で考えて変化に対応していくことは、ラストマンの心構えがなければできません。

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