ヨーロッパ発で金利急騰が広がった理由 ECBと日銀の超金融緩和で起きていること

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日本でも、QQE導入後の長期金利の大きな変動は、一巡するまでに1カ月半から2カ月かかった。この間、米国では量的緩和終了の時期を巡って市場で微妙な心理の揺れがあり、それが日本国債金利の急変動の引き金になった面もある。今回も、米国では利上げ開始時期を巡って市場には様々な思惑が生じやすい時期であり、米国の状況が欧州にフィードバックして市場の変動を増幅した面もある。しかし、あくまでも長期金利の急変動の根底にある要素は、欧州の金融政策である。

少しでも高い金利を求めて資金がさまよう

それではなぜ、欧州の中央銀行の行動と、それに誘発されて起きた欧州債市場の急変動が、日本国債や米国債市場にも顕著に波及しているのだろうか。

もちろん、通常であっても、日米欧の三大債券市場は、それぞれが互いに強い影響を与え合って動いている。しかし、特にこの2年間は、各国の中央銀行による強力な金融緩和によって各市場とも長期金利が歴史的な水準まで低下しており、各国の債券投資家はその中で少しでも金利の高い債券、あるいは少しでも割安な債券を求めて資金を動かすようになってきている。

欧州の債券投資家が日本の2年債や米国の30年債に投資をしたり、日本の投資家が米国の10年債を大量に購入したりという具合に、である。その結果、一市場における相場変動が、ほかの国の債券投資家の行動にも大きな影響を及ぼすようになっているのである。

しかし、さすがに先週、ドイツ国債金利が一時1%を付けるところまで上昇したことで、金利上昇のメドは見えてきたように思える。ドイツ経済の良好なパフォーマンスからすれば、10年債金利の1%という水準はそれでも低すぎることは確かだが、ECBのマイナス金利政策によって、ドイツの3カ月物国債金利はマイナス0.3%という水準である。いわゆる長短スプレッドが1.3%まで拡大している。

2013年5月下旬に日本の金利が急上昇後にピークアウトした時、3カ月物金利が0.1%、10年物が1%で長短スプレッドが0.9%だったこととの比較でも、今回のドイツ国債金利の上昇はすでにかなりの程度に達している。2013年5月にピークを付けた後、日本の長期金利はしばらく横ばい圏で推移したが、夏場以降は日銀の大量の国債買入れによる需給逼迫を背景に徐々に低下していった。ECBによる国債買入れ規模も日銀に劣らず巨大であり、いったん金利上昇のメドがついてくれば、ドイツの長期金利も再び緩やかに低下してくる可能性はあるだろう。

一方、日本の長期金利は、海外要因がなければ、国内要因のみで大きく上昇する要素は今のところほとんど見当たらない。現状程度の円安では、日銀が2%インフレ目標を早期に達成して出口に向かうとの見方が浮上することも考えられない。まだ多少慎重に見るべきではあるものの、欧州債金利の上昇が一巡したとの確信が得られてくれば、日本国債10年金利の0.5%という水準は今後数カ月のスパンでみればほぼピークだったということになるのではないか。

森田 長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント執行役員/チーフストラテジスト、ウォールズ&ブリッジ代表

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もりた ちょうたろう / Chotaro Morita

慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、SMBC日興証券などで30年以上にわたりマクロ経済、金融・財政政策、債券需給などを分析し、2023年10月から現職。グローバル経済、財政政策、金融政策の分析などマクロ的アプローチを行うことに特色がある。機関投資家から高い評価を得ている。著書に『日本のソブリンリスク 国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社・共著、2011年)、『国債リスク 金利が上昇するとき』(東洋経済新報社、2014年)。

 

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