三菱UFJモルガン「70億円訴訟」、投資家たちの憤り 紙くずとなった「AT1債」に納得できない理由

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AT1債が無価値になるまでの約10日間。クレディ・スイスの信用不安が日々高まる状況で、三菱UFJモルガンの担当者から男性に複数回電話があった。

「会社としては大丈夫との判断をしており、投資適格債として今でも売買されている。顧客からの売りも出ていない。むしろ買っている人もいる」。担当者からはそう言われたという。

AT1債が持つリスクは男性も一定程度認識していた。経営破綻時には普通社債よりも弁済が後回しにされる「劣後債」であること、クレディ・スイスの中核的自己資本比率が7%を下回ったときには元本が減ることなどは意識していた。

だが、公的支援を受けた場合には価値をゼロにするという規定の説明を受けた記憶はないという。むしろ、公的支援で銀行が潰れることはないとポジティブに捉えていた。「自己責任と言われても納得できない」と男性は憤る。

UBSのケレハー会長(右)とクレディ・スイス・グループのレーマン会長は3月19日、UBSによる救済買収で合意。スイス政府は買収に伴い発生しうる損失に政府保証を与え、スイス国立銀行は流動性支援枠を設定した(写真:ロイター/アフロ)

購入に使ったのは相続した財産

AT1債が無価値となる直前、三菱UFJモルガンの担当者から説き伏せられたという投資家はほかにもいる。妻がAT1債で2000万円を損したという男性だ。AT1債と同様の債券への投資経験を持つ男性と異なり、妻は投資初心者だった。購入の際、妻の背中を押してしまい後悔している。

2000万円は妻が親から相続した財産で、今後インフレで目減りしていくならと運用に投じた。AT1債の利回りは年10%近くと高いものの、男性は為替リスクもあるので相応と考えた。結果的に妻は利払いを一度受けただけで、無価値となった。

妻がAT1債を購入してから間もない2022年10月下旬。クレディ・スイスの株価は大きく下落した。経営の抜本的な立て直しを狙ってリストラ計画を出したが、株式市場は費用増加などを嫌気した。

心配した妻は「大きな損を出すくらいなら損切りしてやめたい」と、三菱UFJモルガンに伝えた。それに対し担当者は、「自己資本比率が13%前後で推移しているので心配ない。いま売ると損になる」となだめた。

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