トヨタ「プリウス」EV停滞の中で生まれた開拓者 時代に先駆けてハイブリッド車を量産した功績

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ニッケル水素バッテリーとは、それまでにも家庭電化製品などで使われてきたニッケル・カドミウム(通称ニッカド)バッテリーと同じ系列で、同様の特性を持つ。有害物質であるカドミウムに替えて、水素吸蔵合金を電極に使うことにより、安全な高性能バッテリーとした。

初代プリウスに搭載された高出力Ni-MH(ニッケル水素)バッテリー
初代プリウスに搭載された高出力Ni-MH(ニッケル水素)バッテリー(写真:トヨタ自動車)

ただし、ニッカドと同じ特性のため、放電し切ってから充電しないと容量を使い切れないメモリー効果があるため、厳密な充放電管理を行う制御をトヨタは組み立てた。電池容量の2~8割の間で安定的に電力を利用できる仕組みを作り上げたのである。

プリウスが目指したのは「人々のためにクルマ」

初代プリウスのハイブリッド用パワーユニット
初代プリウスのハイブリッド用パワーユニット(写真:トヨタ自動車)

初代プリウスの主査を務めたのは、のちに副社長から会長へ上り詰める内山田竹志である。当時、内山田は私のインタビューに答え、「スポーツカーを作りたくて自動車メーカーに就職したのではなく、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)のように、人々のためのクルマを作りたかった。次世代の小型車であるプリウス開発に携わることができて幸せだ」と、語っている。

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当時、欧州ではHVへの批判的な見解が多くを占めた。欧州メーカー各社はディーゼルターボエンジンでの燃費改善を推し進めた。ところが、2015年に米国市場でVWによるディーゼル排ガス偽装が発覚する。しかも、現在の欧州のCO2排出規制は、ディーゼルエンジンでは解決しきれない。

結果、欧州自動車メーカーはEV開発に躍起となったが、内山田やVWが目指してきた庶民のためのEVの適正な価格での販売がなかなか進んでいない。HVを活かしたプラグインハイブリッド車(PHEV)など、初代プリウス以降、日本が築いてきた戦略を用いざるを得なくなった。

今年デビューした5代目プリウス。初代モデル(1997-1998 日本カー・オブ・ザ・イヤー)、3代目モデル(2009-2010 日本カー・オブ・ザ・イヤー)に続き、先日発表された2023-2024 日本カー・オブ・ザ・イヤーで14年ぶり3回め受賞を果たしている
今年デビューした5代目プリウス。初代モデル(1997-1998 日本カー・オブ・ザ・イヤー)、3代目モデル(2009-2010 日本カー・オブ・ザ・イヤー)に続き、先日発表された2023-2024 日本カー・オブ・ザ・イヤーで14年ぶり3回目の受賞を果たしている(写真:トヨタ自動車)

誰も未来を予言することはできない。しかし、トヨタが20世紀の末にEV開発が一時的な停滞をするなか、HVという新たな価値を創造したことにより、今日の時代を迎えている。

トヨタには、単に80点で可もなく不可もなくといったクルマづくりだけでなく、時代を切り拓く挑戦に満ちた取り組みをする姿もあるのである。

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御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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