「だんご3兄弟」を聞いた9歳の私が衝撃を受けた訳 Aマッソ加納愛子さんがハマった「串にささって」

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しかしあの頃の私はまだ、「みんなが知らない曲を知っている喜び」も「それを後からアピールする楽しさ」も知らなかった。私が「だんご3兄弟」に出会ってから社会的なブームになるまでは、ほんの1カ月、いやもしかしたらわずか1週間ぐらいの出来事だったのかもしれない。それでも私は嬉しかった。あの興奮が間違いではなかったことが。ただただだんごについて歌っただけの曲に魅了されてしまったのが、私だけではなかったことが。

「串にささった」でもなく「串にさされた」でもない

歌い出しは、けんたろうお兄さんの低い声で「♪串にささって だんご だんご」と始まる。私はまずこの「串にささって」がめちゃくちゃ好きだ。

「串にささった」でもなく「串にさされた」でもない、「串にささって だんご」。「ささった」や「さされた」であれば、「そのような状態であるだんごがですね……」と、物語の続きを期待させてしまう。

しかし「串にささって だんご」だと、「もちろんお気づきの方もいるかとは存じますが、やはり、串にささっているということで、だんごの体を成しているんですね〜」という、はやくも、「この歌はだんごがだんごであることを言いたいだけで、きっとなにも起こらないんだろうな」という気配をしっかり感じさせてくれる。そして予想どおり、この曲一番の大事件は「戸棚で寝すごして、硬くなってしまった」なのである。

1行目から「鉄板の上で焼かれて」というおそろしい言葉が出てくる「およげ!たいやきくん」とは大きく異なる。たいやきくんは店の主人と喧嘩し、海へ逃げ込んで、挙句の果てに食べられてしまうのだ。童謡なのに、なんて悲しい結末なんだろうと思う。

一方だんごは歌い終わりまでしっかり3つとも残っている。そしてラストは「オ・レ!」みたいに「だんご!」と高らかに歌い上げて終わる。最高だ。実にあっぱれである。ちなみに私は「なにも起こらないくだらない曲」ならなんでも好きなわけではない。怪しげな前奏で壮大に振りかぶって「くる……何かが始まる……」と思わせておいて、「♪串にささって だんご だんご」で見事に裏切ってくるところがたまらないのだ。

とは言うものの、「好き」の理由を当時の私がこのように言語化できるわけはなかった。「タンゴ」と「だんご」でかかっているというくだらなさすら気づかずに、私は毎日「♪いちばん上は長男長男」と、だんごの兄弟構成を歌っていた。

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