転職がうまくいかない背景にある「業界事情」 「ハイタッチ」なサービスはどこへ行った?

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さて、その成長する人材紹介市場で、「求職者」と「求人企業」がマッチングに関する不満を口にするようになったのはなぜか。それは、人材紹介ビジネスの拡大に伴い、サービスを提供する会社の規模が急拡大し、その結果としてきめ細かいマッチング、すなわち

ハイタッチなサービス

ができなくなってきたからではないでしょうか。ここでいうハイタッチとは、取引先に喜んでもらえる献身的な姿勢のことです。たとえば、人材紹介であれば

・顧客側の「漠然とした」求人ニーズを理解することができる(それだけ会社の課題を十分に知っている)
⇒「うちの会社に合う人」という要望に応えて人材を探せる
・その会社が好む面接作法の指導ができる(それだけ会社の風土を十分に知っている)
⇒面接の場面でよく聞かれる質問と模範解答の指導ができる

こうした姿勢が人材紹介のマッチングを向上させるのは明らかです。ところが、規模が拡大した人材紹介会社はそうしたサービスを排除しています。求人ニーズは社内の検索システム任せ。

転職相談を受けるキャリアアドバイザー(CA)と会社の求人を預かるリクルーティングアドバイザー(RA)は分業化。CAは会社に訪問することはないので、システム上にアップした求人票以上の情報を持たないようになりました。

当然ながらRAが転職希望者と会うこともないので、

「その会社さんにはお勧めの人物だと説明していますが、直接本人と会ったことはないので、本当にそうかは言い切れません」

というのが実態になっています。

業界大手だからといって、きめ細かいサービスができているかというと、そうでもないのです。

ただ、規模が大きくなれば仕組み化を進め、サービスが画一化、標準化するのは常です。別の業界であれば《こだわりの店主がいる1店舗の居酒屋》が多店舗化すると《どの店でも同じ味が楽しめるチェーン居酒屋》に変わるようなことと同じです。

もしかしたら、かゆいところに手が届くハイタッチなサービスを求めるなら、大手よりも小規模なブティック型の人材紹介会社を選ぶべきなのかもしれません。ただ、大手も本音ではどう思っているのか。ハイタッチなサービスを永続的にあきらめて、不満の声に対処するつもりはないのか? 今後の取り組みに注目していきたいものです。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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