弁護士のニーズは「供給」によって増大する 弁護士「削減派vs増員派」、両巨頭の見解<下>

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久保利 英明(くぼり・ひであき) 日比谷パーク法律事務所 代表。1967年、東京大学法学部4年在学中に司法試験合格、1971年弁護士登録。1998年に同事務所を開設。金融庁顧問・金融問題タスクフォースメンバー、第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長などを歴任。詳しくはこちら

――自分の稼ぎを増やすために「事件を作る」ような弁護士が現れるという声もあります。

弁護士が増えれば見解を比較することも可能になる。法律問題かどうかすら知る機会が得られないよりは、遙かにマシだ。今の人数では、そもそも弁護士にたどり着くこと自体が難しい。

――弁護士の適正人口はどのくらいだとお考えでしょうか。

国民にとっては多ければ多いほどいい。多くて困る国民はいないはず。裁判官や検察官の数は国家予算の関係で増やせないというのなら、弁護士から先に 増やせば悪徳業者に泣かされている人が訴訟を起こせる機会が増えるし、訴訟件数が増えれば、裁判官や検察官も増やさざるを得なくなる。

「7割合格」の時代が来れば、希望を見出せる

――弁護士を増やすと競争が起き、競争に敗れた弁護士が窮乏化して悪事を働く、結果被害を受けるのは国民だという説もありますが。

懲戒処分を受ける弁護士は主に、競争に敗れた高齢者層だ。そういう弁護士こそ淘汰されなければいけない。どんなに窮乏しようが、悪事を働かないのがプロのプロたるゆえんだ。

――そこで司法試験合格者数を3000人にせよという運動を展開されていると。

弁護士は増やすべきなのに、その予備軍である法科大学院の志望者数は年々減っている。入学者数は2300人弱しかいない。私が司法 試験を受験した頃は合格者500人のところ大体2~3万人の受験者がいた。

司法試験の合格者数を減らせと言っている人たちは、多額の授業料で負債を背負っ ても合格出来るかどうかわからないだの、合格しても就職先がないだの、食えずに困窮するだの言って、弁護士全体のイメージを下げている。そんな希望のない 職業を目指す人が減るのは当然。

根本原因は、2割しか受からない試験にしたことであって、当初の想定通り7割が受かる試験にすれば希望を持てる。昨年の司法 試験合格者数は約1800人だったが、合格者数を増やす方向性が見えれば、志願者は増える。

このほど政府の顧問会議が、最低でも合格者数を1500人以上確保する方向性を打ち出した。メディアは「2000人以上」をさらに「1500人以上」に縮小するものと誤解しているが、趣旨は逆。2000人強の受 験者で1500人以上は合格させると言っているのだから、まさに当初構想通りの7割合格になる。今こそ法曹になるチャンスだ。

――合格しても就職難だと言われている点はどうお考えでしょうか。

あくまで希望する法律事務所への就職にこだわれば就職難かもしれないが、企業や官庁でも弁護士の需要は増えている。何より弁護士は試験に合格して修習を受ければ資格が得られる。事務所に就職せずともOJTの機会が得られることは、即独した若手の弁護士たちが証明している。

――弁護士事務所でOJTを受けないから弁護士会活動にも参加せず、弁護士会活動に参加しないから人権への理解も深められていない、という主張もあります。

弁護士会活動は無給だし、10年選手くらいまでは基本的に下働き。若手が自分のことで精一杯で関心が薄いというのは今に始まったことではなく、昔から そうだ。

ただ、私が関与している弁護士会活動で言えば、若い人たちが積極的に参加しているし、後輩も積極的に引き込んでいる。研修会も盛況で、若手が弁護 士会活動に無関心という印象は私の周囲ではあまり実感がない。

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