「1ドル142円に急騰」誰も語らないシンプルな本質 「買う理由」「売る理由」から社会の動きがわかる

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さて、この視点を取り入れて、大きく動いている為替市場を見てみよう。為替市場には、さまざまな理由でドルを購入する人たちが存在する。

ドルを買う人の「3つの理由」

1つ目は、石油や小麦粉を輸入するためや海外旅行に行くためにドルを購入する人たち。彼らは使用する目的で「買いたいから買う人」である。手に入れたドルは支払いに使われて、手元には残らない。それ以上の取引は発生しない。

2つ目は、アメリカ国債などのドル建ての金融商品に投資するために買う人たち。日本の国債利回りはおよそ0~1%(年限によって異なる)なのに対して、アメリカ国債の金利は4~5%もあるから、アメリカ国債は投資対象としては魅力的だ。

アメリカ国債だけでなくアメリカ株などに投資する人たちも多く、彼らはそれらの金融商品を買うために為替市場でドルを購入する。彼らの多くは、いつかは国債や株を売却して日本円に戻すと考えられるから、長期的には「売りたいから買う人」とも言える。しかしながら、ドル自体の値上がりだけを期待しているわけではない。

3つ目は、ドルの値上がり目的だけで(いわゆる投機目的で)買っている人たちだ。1つ目や2つ目の目的でドルを購入する人たちが増えることを見越して、先回りして買っているのだ。彼らこそが正真正銘の「売りたいから買う人」たちである。

今回、ドル円相場が大きく下げたのは、主に3番目の人たちの影響だ。日銀がマイナス金利を解除して利上げを行えば、日本の国債利回りも上昇する。すると、2つ目の目的で購入する人たちが確実に減ってしまう。だから、慌てて売ったのだ。

もちろん、そこまで思いつかない人もいる。そんな彼らも、価格が下がり始めると「こんなはずじゃなかった」と思って、保有していたドルを売却し始めた。彼らにとっては、値上がりしなければドルなんて必要ないのだ。

ここで、物静かなのっぽの先輩の顔が思い浮かぶ。「ドルを売りたい人が多かったんだろ」。

今回の為替市場の急速な動きからわかることは、市場参加者の中に、値上がり期待でドルを保有していた人がかなり多かったということだ。もし少なければ、日銀総裁のコメントでここまで為替相場は動いていなかった。

世の中の動きを知るには、きっかけとなった日銀の政策について考えるよりも、どうしてそういう人たちが多かったのかを考えないといけない。

1つの理由としては、来年から始まるNISAの拡充があるだろう。新制度が始まれば日本の投資マネーが利回りの高いアメリカの金融商品へ向かうのは自明だから、先回りしてドルを買っている人(投資会社や金融機関なども含む)も多かったはずだ。

次ページ人は「小難しい理由」を求めてしまう
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