マエカワはなぜ「跳ぶ」のか 共同体・場所・棲み分け・ものづくり哲学 前川正雄著/野中郁次郎監修~長期勤続が支える優れたものづくり

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マエカワはなぜ「跳ぶ」のか 共同体・場所・棲み分け・ものづくり哲学 前川正雄著/野中郁次郎監修~長期勤続が支える優れたものづくり

評者 中沢孝夫 福井県立大学特任教授

最終章に「定年のない会社がイノベーションを遂げる」とある。そして「マエカワで、日本語を話せる外国人を増やしているのは、日本語で協働してハイテク化を進めようとしているからである」と結んでいる。ともに最近の日本では聞かれぬ意見であり、実に心丈夫である。

優れたものづくりが長期勤続に支えられている側面があることは、かねて指摘されているが、本書を読んでますますその感を深くした。マエカワ(前川製作所)では「日本国内で2200名の社員が働いているが、60歳以上が245名。最高齢者は事務系で80歳、技術系では78歳である。親子だけではなく、なかには祖父と孫が一緒に働いている職場もある」という。

マエカワでのキャリアは、たとえば、製造担当→サービス担当→設計担当→工事担当→エンジニアリング担当という具合に形成され、その間30年かかるという。すなわち20代から40代の終わりまでだ。その30年を「動の時代」と呼び、その先の50代から70代を「静の時代」と呼んでいる。前者は変化と革新、成長を目指す時代であり、後者は安定と伝統、成熟を大切にする時代であるとされる。

このようなマエカワのキャリア形成は同社の技術の発展と重なる。冷凍機からスタートし冷却システムを生み、産業用冷却装置の応用としてヒートポンプを開発。その結果、送電ケーブルの冷却装置から超電導送電へと発展した。あるいは鶏肉の加工ロボットの開発経過などを見ると、同社の老・壮・青の共同作業によるイノベーション(跳ぶ)がよくわかる。著者はその共同(体)を「場所」と名付けているが、監修の野中郁次郎氏は、この経営モデルは「日本発信の世界的モデルになる可能性を秘めている」と語る。心強いものづくり論、経営論である。

まえかわ・まさお
MAYEKAWA HOLDINGのCEO、前川製作所顧問。前川報恩会理事長、和敬塾理事長。1932年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、前川製作所入社。71~96年社長。その後、会長、名誉会長を経て、2009年6月より現職。

ダイヤモンド社 1890円 230ページ

  

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