東電を「ゾンビ企業」にしてはいけない--『日本中枢の崩壊』を書いた古賀茂明氏(経済産業省大臣官房付)に聞く

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──補償額は兆円単位のオーダーになるのでは。

原子炉を安定化させるだけでもそうとうな費用がかかる。しかも廃炉するとなると、これだけで兆円オーダーになってくる可能性がある。実質的には東電は債務超過になろう。東電だけでは被災者に補償を払い切れないことも、覚悟せざるをえない。それを国民全体でカバーして、被災者にはすべて払ってあげよう、というのが国民世論だろう。

ただ、その国民負担は極力小さくすべきというのが国民の声のはずだ。政府のスキームは株主を守るとしてきた。銀行の債権はカットされないとも。株主は東電の所有者なので真っ先に負担すべきで、銀行の債権もある程度カットせざるをえない。そうするとその分、国民の負担が減る。株主や債権者が責任を取るのは普通の資本主義国のルールであり、破綻(再生)処理が行われないのも、海外の人から見るとおかしいとなる。

──電力事業は地域独占になっています。

電力が必要不可欠な中で、もう一つ政府のスキームで問題なのは、東電が「ゾンビ企業」になることだ。最低10年、あるいはそれ以上にわたり賠償という十字架を背負っていく。おまえはけしからん、したがって儲けてはダメだとされながら、でも生きることは生きろ、死んではダメだぞ、というスキームになっていいのか。働く人は意欲を失い、新しいことに挑戦しなくなる。

電力を成熟し切った産業のように見てはいけない。再生可能エネルギーはこれからどんどん広がっていくし、スマートグリッドを中心に大きなビジネスになっていく。電力事業は変わるし、関連する多様な事業が出てくる。そういう意味では、日本の成長戦略の一つの大きな柱になる。これから成長の柱になるものを「ゾンビ企業」でできるとは到底思えない。いかに世界標準を取るかで主要国がしのぎを削る将来有望な分野で、明らかに後れを取ることになる。

──再生可能エネルギーもまだ力不足では。

再生可能エネルギーと言ったときに、原発推進論者はとかく、たとえば太陽光発電で原発1基分の電力を出力するには、山手線の内側全部を太陽光パネルにしなければいけないとか、地熱発電は、可能な土地がどこも国立公園の中でそう簡単に開発できない、温泉事業者との調整が困難であるとか、風力の場合は、風車の音がうるさいとか、低周波の問題があるとか、いろいろ「難癖」をつける。

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