日米の政治経済を繋いだ、ある米国人の半生 慶應大学ジム・フォスター教授に聞く(前編)

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「日本の規制のあり方について、私たちの基本的な考え方―ー透明性がないとダメだし、一貫性がないとダメだし、中立性、アカウンタビリティ、ドゥ・プロセスがないとダメということを説明したのです」

しかしITという日々変わっていく事業分野では、むしろほかの企業と協力することのほうが大事です。法改正とかビジネスプラクティスの改善という共通の問題の前では、対立するどころではなく、みんなが協力し合いました。

具体的に申し上げると、プライバシーを保護しながらどうやって情報交換、情報共有を可能にするか。また放送や通信にかかわる法律をどうやって改正してインターネットを取り入れるか。またオンラインコンテンツを増やすために、法体系をどういうふうに変えたらいいのか。たとえばヘルスケアにおいて、環境において、教育において、ICTに関する法律の採択をどうやって早めるか。これらはすべての企業にかかわる問題でした。

最初はIBMやインテル、後ににアップルとか、グーグル。もちろん市場において彼らは競争相手だけれども、政策の面で協力し合おうと私が主張したんですね。それで関係各社とインターネット・エコノミー・タスクフォースをACCJ(米国商工会議所)の枠組みの中で作ったのです。2008年のことです。

それを作るだけでは意味がないので、私は宿題を出しました。それは白書を書きましょうという宿題です。なぜ白書を書くのかというと、われわれの対立点を掘り出すよりも、共通点や協力できる点を探ってみるのが目的です。

それで、白書を読めばわかると思うのだけれども、最初は日本の規制のあり方について、私たちの基本的な考え方を示しました。やはり透明性がないとダメだし、一貫性がないとダメだし、中立性、アカウンタビリティ(説明責任)、ドゥ・プロセスがないとダメ。そういう基本的な考え方を説明したのです。日本の企業はそれを見て、わかってくれたのですね。

桑島:「私たちもそう思っていた」と。

安倍政権の今の政策を経団連と構想していた

フォスター:そうそう。今までは、個別の問題の対立点にばかり焦点を合わせていて、ACCJと経団連の共通の基盤がなかったのです。しかし一歩引いて全体を見ると、規制のプロセスをどういうふうに変えたらいいのかという点においては、多くの共通点がある。また、われわれのプリンシプルは日本国内だけではなくて、世界的にも、たとえば第3国においても言えることです。つまりインド政府は透明性がないし、中国政府はまったく一貫性がない。アカウンタビリティがない。中立性がない。

それで白書の第1章では、インターネットエコノミーの法体系をどうやって確立するかについて述べ、その中でプライバシー、放送、著作権、すべて取り上げました。それから第2章以降でインターネットエコノミーをいかに確立するかについて述べました。たとえば教育、ヘルスケア、環境、交通、農業の分野でどういう改革をして、どういう政策をとればいいのか。今、まさに安倍政権が取り組んでいる問題を、5~6年前に経団連と協力して構想したんですね。

そして最後の4章では、まさしく「じゃあどうする」というアクションプランを書かなくてはならない。そこで日米インターネットエコノミー対話を推奨したのです。

桑島:それは政府側のあるべき姿を提案したのですか。

フォスター:政府と企業の両方です。それをどうやって実現するか。それが今日の話の中心になると思います。

桑島:わかりました。それについては、次回、詳しくお聞きしたいと思います。

(構成:長山清子、撮影:今井康一)

※対談の後編は6月16日(火)に公開予定です

桑島 浩彰 青山社中CFO

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くわじま ひろあき / Hiroaki Kuwajima

1980年石川県生まれ。東京大学経済学部卒業。ハーバード大学経営大学院/行政大学院修了(経営学修士/行政学修士)。

三菱商事株式会社、ハーバード大学留学を経て、株式会社ドリームインキュベータ (日系戦略コンサルティングファーム)に入社。国内大企業のグローバル戦略立案及び実行支援に従事。2012年5月青山社中株式会社 共同代表CFO就任。

2014年アイゼンハワーフェロー日本代表。グロービス経営大学院MBAプログラム講師兼任(2015年1月より)。米国、中国、アジアなど日本の政治経済に関する海外講演多数。

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