リピート率75%「新感覚スーツ」を生んだ発想 ユニクロも嫉妬する元水道会社の"非常識"

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タピオカミルクティーと機能性スーツという2つのヒットを仕掛けた関谷社長は、背景にある戦略について「戦略的にやらないのが戦略、なんです」と話す。「教科書的に考えれば、経験のない水道屋が飲食やアパレルの世界に飛び込むのはありえない。理屈ではなく、わき上がる情熱が原動力なんです」。

関谷社長(写真:尾形文繁)

理屈はない、と関谷社長は言うが、ここには、実は明確な理屈があるともいえる。

WWSの開発は、もともと社内プロジェクトとして発足し、はじめからビジネスにする意図はなかった。だから、「いつまでに完成させる」という期限も目標も設けず、何十回と失敗を繰り返しても、とにかく理想とするプロダクトができるまで資金と時間を惜しみなく投下し続けることができた。戦略でなく「衝動」に突き動かされたからこそ、ゼロイチのイノベーションを生むことができたのだ。

「スケジュールやゴールをガチガチに決めていたら、間違いなくプロジェクトは途中で挫折していましたね。もともとビジネスとしてやっていないから、時間も予算も自分の裁量で自由に費やせたんです」

「部外者」だからこそ信念を貫けた

関谷社長がアパレル業界の「部外者」だったことも奏功した。WWSがはじめてリリースされた当初、アパレル業界から多くの批判を浴びたが、部外者だったがゆえに、その声に惑わされずに信念を貫いた。そのことが、常識を覆すイノベーションにつながったのだ。

また、アパレル業界では季節に合わせて新作アイテムをそろえるのが常識だが、WWSでは「納得のできるものができるまで商品は出さない」と、ここでも非常識を貫く。いつ新商品がリリースされるかわからないからファンも心待ちにする。冒頭の「ヘルスプラス」が1200%の応援資金を集めたのも、そんなファンの渇望の表れかもしれない。

「非常識なことをやるのだから、反対の声が上がるのは当たり前ですよね。でも、その反対する人に思いを伝えて、協力者に変えていく。それが私のスタイルなんです」

その関谷社長はいま、新たな「衝動」に突き動かされている。アパレル事業で新たなオリジナルブランドを立ち上げるのだ。詳細はまだ明かせないが、「アパレル業界の常識を塗り替える、これまでにないコンセプトのブランド。ショップも準備中」だという。

「やりたいと思うからとことんやる」。ひょっとしたら今の日本企業に足りないのはそんな当たり前のことなのかもしれない。

堀尾 大悟 ライター

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ほりお だいご / Daigo Horio

慶応大学卒。埼玉県庁、民間企業を経て2020年より会社員兼業ライターとして活動を開始。2023年に独立。「マネー現代」「NewsPicks」「新・公民連携最前線」などで執筆。ブックライターとしても活動。

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