「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄《それゆけ!カナモリさん》

「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄《それゆけ!カナモリさん》

 

■シンプルにして奥深い職人仕事とマーケティングの共通点

 その靴磨き職人の師匠の仕事は他の誰とも違う。

「靴クリーム」がオリジナルの特製なのである。「靴の自然派化粧品」とでも表現すればいいのだろうか。彼がオリジナルにたどりついたのは、既存の市販品では靴の革の表面を塗り固めて殺してしまうからだという。磨き方のポイントは、革の深部にまでクリームを染みこませ、表面は呼吸ができるような状態にすることらしい。

「いろいろなものを塗りたくるから、人間の顔も肌の状態が悪くなるんだ。本来、水で洗って拭くのが一番。それと同じ」と言う。聞けばシンプルな話だが、彼とその弟子が磨くと靴は本当にピカピカになる。

「何で他の人間の仕事と違うかわかる?」と彼は聞く。無論、クリームの違いだけではない。「磨き方の徹底度が違うの。ダイヤモンドと一緒。石炭もダイヤモンドも同じ炭素でしょ。圧力の違いで輝き方は全然違うものになる。技術がない人間が磨いた靴は、布で拭くと靴墨で汚れる。磨く時の圧力のかけ方、磨き込み方が違うの」。

余分なものを排したオリジナルの靴クリームで徹底して磨き上げる。シンプルにして徹底したその仕事は、職人の技そのものだ。だがそれは、マーケティングの基本とも通じる。

フレームワークは共通認識を形成するための道具でもある。しかし、多用して難しいメッセージで伝えすぎると、聞き手・読み手を煙に巻く道具にもなりかねない。ビジネススクールの初期課程で教えられるマイケル・ポーターや、フィリップ・コトラーの基本的なフレームワークで極力シンプルに説明ができるようにした方がいいのだ。

シンプルな道具を用いる代わりに「徹底」する。見落としがちな細部に目をこらし、アタリマエと思われることを疑う。そして、フレームワークで切りまくる。石炭がダイヤモンドの輝きを放つようになるまでの圧力を加えるが如く。同じモノゴトも、それをどう磨き込むかで輝くか、路傍にうち捨てられる石塊になるかが変わるのだ。

 

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