ヘヴィメタルバンドANTHEMに学ぶ仕事哲学 音楽を30年続けられる情熱はどこにあるのか

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常見:ANTHEMは楽曲のクオリティ、演奏力の高さ、熱さなどが評価されていると思うのですが、私、実は歌詞がいいなって思っているのです。

湧き出てくる言葉を歌にする

柴田:なぜですか(笑)。僕は自分のことを作詞家だなんて思いはまったくないですよ。

常見:いや、柴田さんの歌詞は必ず柴田節というか、ANTHEM節というか、ここにしかない、熱く、滾る世界観がありありと見えてくるんです。普段、どんな風に歌詞を考えているのですか?

柴田:簡単に説明すると、曲を作っているときに自分の頭のなかにあったイメージをそのまま言葉にしています。レコーディングでベースやドラムといった各パートの音を入れていく間に、頭の中で、漠然とその曲が醸し出す世界観が見えてくるんですね。歌を入れるぎりぎり前に歌詞を一気に書き上げる感じですね。

常見:曲の方が先なのですね。

柴田:ほとんどの曲はね。ただ、文章を書いて食べている常見さんに評価して頂くのは嬉しいけど、僕の言葉の持つ多面性や表現力が他の誰かよりも優れているといった気持ちはないですよ。

常見:でも、あれだけリスナーの心に響く歌詞は柴田さんじゃないと書けないと僕は思うんですよね。日本のメタル界で、これだけブレない世界観を描いている人は柴田さんしかいないと思います。

柴田:僕の世代は、例えば阿久悠さんのような、偉大な作詞家の曲が流れていたわけで。あの言葉の使い方はすごいなと思っていたのです。そのような偉大な作詞家がいる中で、歌詞について褒められるとやや戸惑いますが。強いて言うなら、誰から借りた言葉を歌詞に取り入れることはありません。僕も日々、本を読んだり、曲を聴いたりして、「これは素晴らしい言葉だな」と感動することは山ほどあります。ただANTHEMで表現したい音楽にのる歌詞は、僕の中から自然発生したものしか使わないんですよね。

常見:受け売りじゃなくて、自分から湧き上がった言葉を信じろと。

柴田:その通りです。

常見:特に「RUNNING BLOOD」の歌詞は傑作だと思います。「Gooddamm腐った魂を蹴り上げろ!」というあの一節。これは、日本のメタル界に残る、屈指の歌詞だと思います。ライブはもちろん、普段も聴く度にウルっときます。あの歌詞はどうやって生まれたんですか?

柴田:2001年にANTHEMを再結成するときに、最初にデモ音源を作ったのが「RUNNING BLOOD」でした。当時はサンフランシスコでレコーディングしていて、毎晩歌詞を作るのに非常に苦労していました。正直それなりの歌詞を作ろうと思えば、作れるんです。でも心の中では、「待たせているんだから、適当に書いちゃえばいいじゃないか」という自分と、「適当にやるために再結成したわけじゃないだろう。こだわりぬいて、こだわりぬいて、こだわりぬいて、絶対に負けちゃだめなんだ!」という2つの自分がいたわけです。

常見:ブラック柴田とホワイト柴田、良い柴田直人と悪い柴田直人が戦っていたと。

柴田:それで、もうどうにでもなれと思って選んだ言葉があの歌詞でした。

常見:あれは当時の柴田さんの心境だったわけですね(笑)

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