北朝鮮でカップルに人気の「意外な商品」 なぜ平壌で「消費ブーム」が起きているのか

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また、鮮やかな伝統衣装を手に取り、「朝鮮民族が自慢する絹織物でつくった衣装」とアピールするのは、松島貿易会社のユン・グムチョル氏(31)だ。同氏は「私のような結婚適齢期の男性に特にぴったりだ」と笑う。

北朝鮮で結婚式をあげる際には、女性は民族衣装のチマ・チョゴリ姿が普通だが、男性は黒色のスーツが普通だった。その理由ははっきりとしていないが、男性が民族衣装を着ると封建時代の両班(ヤンバン、朝鮮時代の貴族階級)を連想させ、それが社会主義国家にはふさわしくないとされてきたためとの説明を聞くことが多い。

「びっくりするくらいの注文を受けた」と驚くユン氏。民俗衣装がここへ来て人気沸騰中だ

そのような考えや意識が薄れてきたのか、公式メディアでも結婚式の様子を伝える報道では、男女ともに民族衣装で着飾って結婚式を執り行う様子を伝えるものが出てきている。

実際に平壌では今、民族衣装がかなりの人気を集めているようだ。そのためか、「1日でびっくりするくらいの注文を受けた。これほど手応えを感じるとは想像できなかった」(ユン氏)。洋服も展示されているが、衣服に十分なカネをかけられるほど、平壌市民の収入も増えていることが反映されている可能性もある。

2012年に本格化した金正恩政権は、当初から市民向けの娯楽施設の建設や、「チャンマダン」と言われる闇市場での商行為を黙認するなど、国民の生活経済を向上させるような政策を陰に陽にとってきた。

そのため、購買力を持つ国民が増え、これまでとは違った消費文化の発達が注目されてきた。一方で、政権幹部の処刑や前述した核開発などによる軍事的挑発など、政治面では相変わらずの強硬姿勢も目立つ。

経済は内閣に任せた金正恩第1書記

とはいえ、平壌国際展覧会のような対外的な国家イベントが継続して行われ、参加者数も増加傾向なのは明らかだ。

北朝鮮企業の数も、回を重ねるごとに外国企業よりも増えている。数多くの商品が北朝鮮へと流入するようになり、輸出入で貿易会社は潤い、商品を購入できる市民の財力も少しずつ高まっていることは間違いなさそうだ。これは「金第1書記が、経済に関しては内閣に任せていることが大きい」(北京の北朝鮮筋)。

いくつかの経済施設への現地指導の様子が報道され、現場幹部を叱咤激励する姿が伝えられることもあるが、「基本的に経済に金第1書記が口を出すことは少ないのではないか」(同)という指摘もある。

「政治面では処刑や粛清といったおどろおどろしいニュースが伝わってくるものの、経済面では、仲が悪いとされる中国との交流も衰えていない」(同)。韓国統計庁の資料によれば、2013年の北朝鮮の1人当たり国民所得は約15万円とされる。

現在、いわゆる「チャンマダン」(闇市場)での実勢レートは1ドル=8200~8500(北朝鮮)ウォン、コメの価格も1キログラム=5100~5200ウォンだという。過去の統計だけでは、今回の展覧会のような繁盛ぶりは理解できない。閉鎖国家と言われる北朝鮮だが、一部の庶民たちはしたたかにさまざまなビジネスチャンスをつかんで、経済力を徐々につけつつあるのかもしれない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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