日本人をさらに貧乏にする2024年「新紙幣」の盲点 「経済効果1.6兆円」は全体を見ないまやかしだ

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新紙幣の発行を批判したいわけではない。経済効果という数字に踊らされてはいけないということだ。2025年に開かれる万博も2兆円の経済効果があると言われている。しかし、大事なのは「どれだけの幸せをもたらすか」を考えること。金額が高いからといって、幸せが増えるとはいえない。

大切なのは「どんな未来が作られるか」だ

僕が今回書いた小説『きみのお金は誰のため』でも、身近な例をつかって、それを説明している。

同じ商店街の和菓子屋からどら焼きを買ってきた主人公の優斗(中学2年生)に、先生役の“ボス”がこんな言葉をかけるシーンがある。

「おばちゃんはまけてくれたんやろ? 彼女だってお金は欲しいはずやで。せやけど、優斗くんとお金を奪い合っても意味ないと思っているから、200円にまけられるんや」
「値段は安いほうがいいってことですか?」
「そういう話やない。値切って安く買おうとするのも、客に高く売りつけることだけ考えるのも、お金の奪い合いや。共有できることは他にある。少なくともおばちゃんは、君がおいしくどら焼きを食べる未来を共有してくれていると思うで」
『きみのお金は誰のため』132ページより

紙幣のデザイン変更にしても万博にしても、それによってどのような未来が作られるかが重要だ。

そして、この経済効果によって、お金がどこからどこへ流れているかについても考えないといけない。自分の財布から流れ出たお金を、既得権益のある会社が受け取っているだけなのに、喜んでいるのかもしれないのだ。

economyを経済と翻訳したのは、福沢諭吉。経世済民「世を經(をさ)め、民を濟(すく)ふ」を略して経済という言葉をあてたと言われている。民を救うことを目的にしていたはずの経済が、その意味を失いつつある。

福沢諭吉が紙幣の顔でなくなるのは、何かの暗示なのかもしれない。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。著書に『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など。

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