口永良部島噴火、なぜ予知できなかったのか 火山列島ニッポンに必要な「戦略」

拡大
縮小
口永良部島(写真:毎日新聞社/アフロ)

一方で、今回の噴火直前の火山性地震は29日午前9時台にわずか1回。10時台に77回と急増しているが、この間の9時59分に噴火が起きている。気象庁によれば「10分前にも明らかな変化は観測されなかった」という。

口永良部島は直前の予知が極めて難しい火山であると、あらためて示されたと言えるのだろう。

御嶽山では、昨年9月27日の2週間ほど前から火山性地震の「やや多い」状態が続き、噴火10分前にはマグマの動きを示す火山性微動も観測されていた。「御嶽ではその情報の伝え方が不十分だった」と名古屋大学地震火山研究センターの山岡耕春教授は認める。

火山はそれぞれに個性がある

火山はそれぞれに「個性」があり、避難誘導や地域の対応も個々に考えられなければならない。例えば富士山は知られている限り、山頂からよりもむしろ山腹(側火口)から噴火する。ならば山頂にいる登山者と麓にいる人たちでは、避難の仕方がまったく違ってくる。こうしたきめ細かな対応を地元や登山者、観光客を巻き込んで詰めていかなければならない。

御嶽山の噴火被害を受け、国は法改正で「常時監視火山」を現行の47から50に拡大、合わせて火山周辺約130の市町村に関係機関と対策を協議する「火山防災協議会」の設置を求める。ちょうど今国会での成立を目指し、改正案が閣議決定された29日に口永良部島が噴火したというタイミングだ。

すでに協議会がある自治体でも防災体制の見直しは進んでおり、箱根山の地元は「昨年末に避難誘導マニュアルを作っていたため、迅速な対応ができた」と山岡教授は評価する。しかし、問題はその「戦略性」だ。ただ協議会を立ち上げ、画一的なマニュアルを作っていても仕方ない。

「今は個々の火山の地元で戦略的な防災体制を推進したくても、予算も人材もない。国として火山防災を戦略的に進める組織や、調査研究から監視、防災までの全体を見渡した戦略的なコーディネート機能、長期的な人材育成が必要だ」と山岡教授。火山との戦いは長く、誰も避けられない課題として国全体で考えていくしかないだろう。

関口 威人 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT