日本政府の格付けAa2を引き下げ方向で見直し《ムーディーズの業界分析》

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見直しの根拠

世界的金融危機は、日本経済にも深刻な影響を及ぼした。これによって、政府が2020年までにプライマリーバランス(利払い費を除く)の均衡を達成するうえで、政策上の取り組みによって克服すべき課題も大幅に増加した。日本の10年のGDP成長率4%は、主要先進国の中でも高い水準となったとみられるが、名目成長率で見た回復は弱く、10年第4四半期はマイナス成長となった。3月11日の震災の影響により、11年第1四半期の実質成長率は年率換算でマイナス3.7%に落ち込み、この10年間で3度目の景気後退となった。

これに加えて、震災関連のコストは、当初の予想を大幅に上回ることが明らかになりつつある。暫定的な見通しでは、政府が負担する直接的なコスト(福島第一原子力発電所の事故に関連する東京電力の債務から発生しうるコストは含まない)はGDPの約2%とみられている。これは、1995年の阪神・淡路大震災のコストの2倍である。

このような状況が、財政赤字を着実に削減するための助けとなる十分な経済成長を達成することをいっそう難しくしている。政府が想定するベースラインの「慎重」シナリオでは、20年までの長期においても、成長率は実質ベースでも名目ベースでも1~2%のレンジを上回ることはないと予想されている。

また、政府のより楽観的な「成長戦略」シナリオでは、20年までに名目GDP成長率が3.8%に達すると予想されているが、それだけではプライマリーバランスの赤字を解消するには十分でないため、効果的かつ時宜を得た政策対応が重要である。このシナリオでは、より力強い世界経済と国内労働参加率の上昇が、経済成長を押し上げると想定しているが、プライマリーバランスの赤字を解消するためには、新たな財政改革が必要となることは必至である。

そのために、政府は6月をメドに包括的な税制改革案をまとめる意向である。しかし、野党自民党が参議院議席の多数を占める「ねじれ国会」や、菅首相に対する政治的圧力の高まりによって、そのような取り組みが難航するという状況が続くだろう。

ムーディーズは、日本政府が短中期的に資金調達危機に陥るとは考えていないが、どの国も永久に財政赤字を出し続けることはできない。

90年代初頭以降の多額の赤字と低迷する経済成長により、政府債務は主要先進国中、最大となり、10年の政府債務のGDP比は、IMFの推定で226%、内閣府の推定で174%となっている(両者の差異は会計基準の相違によるもの)。また、いずれも、現在の政策および成長見通しでは、長期的に債務が増大することは避けられないと見ている。

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