医師も弁護士も生成AIを使いこなすべき理由 顧客視点で考える専門家の生成AI活用の極意

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しかし、LLMは電卓機能や数学の解法自体を覚えているわけではなく、数学に関する記述も含まれている世界中の文章の中の数字と単語の関係性(つながり)を学習しているにすぎない。それにもかかわらず、あたかも四則演算の概念を獲得しているかのように振る舞うことには、AIの専門家も驚きを隠せない。

もちろん、実際に概念を獲得しているわけではないので、足し算でも桁数が大きくなれば間違えるケースもある。間違え方も、足し算の答えに現れる数字の羅列の多くは合っているものの、いくつか数字が違っているという具合に、「つながり」を学習しているLLMらしいものになる。

また、歴史的なできごとを問う質問に、事実とは異なる創作物語のような回答をすることもある。こうした現象は、幻覚(ハルシネーション)と呼ばれる。しかし、幻覚を見ているのは、LLMが概念や事実を理解していると考えがちな人間のほうかもしれない。

暗黙知の言語化は、AIは人間にかなわない

LLMの学習済みの膨大なテキストデータから、事実でかつ有用な知識を引き出すことは、本来のLLMの使い方としてあまり実用的ではない。むしろ、ユーザーの保有するローカルデータを解釈させて、必要な生成タスクを実行させるという使い方が主流になるだろう。

言葉のつながりの知識は拡張されて、画像や音声などのマルチモーダルな(複数の種類の)情報との関係も柔軟に学習できるようになってきている。2024年は、マルチモーダル化とローカルデータに本格対応したLLMプラットフォームやアプリケーションが増えると予想される。

LLMとそれを活用した生成AIの発展で、自然言語(テキスト)で書かれたデータの価値が高まっている。もちろん企業には、規程、報告、設計などのドキュメント、メール、アンケートなどテキスト情報が多くあるはずだ。

しかし、これまで横断的な操作はせいぜいキーワードに基づく検索程度で、本来ユーザーがやりたいこととのギャップは大きかった。現場での作業や運用のノウハウの多くが言語化されず、内輪の人間だけがわかっていればよいだろうということで、暗黙知のままになっていることも多い。自然言語で書かれたシステム要求仕様書と、それを実装したはずのプログラムとの間の整合性も、開発や改良を行ううちに失われがちだった。

こうした人間とシステムの間のコミュニケーションギャップは、LLMと生成AIによって埋められることになるだろう。

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