「ウェブCMへの苦情」急増を招いた制作側の背景 悪質業者と考査のイタチごっこに

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JAROに寄せられる苦情はテレビとインターネット上のものがほとんどを占めますが、20年は総受け付け件数が1万5100件と大幅に増えまして、それは新型コロナの影響が大きかったと思います。

社会不安によるストレスを抱えながら、在宅を強いられメディアへの接触も増えたことで、苦情の件数そのものが増えました。加えて、巣ごもり需要でEC(ネット通販)分野が伸びた結果、例えば旅行関係などのブランド広告がまったくなくなった代わりに、健康食品や美容系などのEC広告が非常に多くなり、その中には不適切な表示のものも少なからずありました。

翌21年の総苦情受付件数は減少しましたが、それは不適切なアフィリエイトサイトなどについて前年に刑事事件があったこと、そして消費者庁が「検討会」を立ち上げたことなどが影響したと思われます。22年にはさらに件数が減って、僅差ながらテレビがインターネットを上回るという結果になりました。

ただ一方で、動画広告、ウェブCMについての苦情は19年の下半期くらいから急増していまして、私個人の印象としては、20年くらいから表現の良くない動画広告が増えている気がします。悪質な業者が動画広告のほうにも流れているのかなという推測もしています。

表現そのものよりデバイスの要素が大きい側面も

──実際に寄せられる苦情の中身は具体的にどのようなものでしょうか。

まず、映像面について言いますと、スマホを見ている人を向こうから映すような演出とか、顔のアップやチカチカする映像など、ある程度距離を取って見るテレビなら大丈夫であろう映像表現が、スマホだと不快に感じたり、驚いたりしてしまうというものですね。

あと、ホラーや性的な表現など子どもにふさわしくない表現のCMが流れてビックリしたというものもあります。これは、テレビであれば世帯へ向けた放送なので時間帯や表現に配慮することが可能ですが、ネットの場合は個人向け配信なのでどうしてもミスマッチが起こりうるわけです。

あとは音声面です。イヤホンで音声を聞いている場合、突然の大きな音が鳴ったりすると不快に感じる方は一定程度いるんですね。

こうした苦情については、やはり使っているデバイスの要素が大きく、クリエイティブの良し悪しというよりは配信の手法とか配慮の問題かもしれません。テレビCMでは音を聞きやすくするラウドネス規制がありますが、動画広告の場合は一部のプラットフォームのみでしょうから、それをイヤホンで聴いていればなおさら不快に感じることはあるだろうと思います。

また、テレビCMをそのままウェブで流すと、受け取る人が使うデバイスによって、画面の大きさが違うので、注釈などの小さな文字が読めないということも出てきます。

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