夫婦を襲う「中学受験クライシス」のまさかの末路 心理学的に読み解く「中受離婚」のメカニズム

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両親の課題に結論を出すべきなのは両親であり、その結果に責任を負うべきなのも両親である。自分の人生と両親の人生は別物。いくら子どもであるとしても、両親の人生に口を出すのは越権行為である、と。

無論、子どもは両親の決断に多大な影響を受ける存在だ。だからこそ、男性の父親は息子への影響を考え抜いた。でもそこで気づく。離婚で失うのは結婚という社会制度上の形式だけであって、自分が父親としての自覚をなくさなければ、息子が失うものは最小化できる。

むしろ、自分たち夫婦の課題に真正面から向き合い、真摯に解決する姿勢を見せることこそ、息子への教育になるのではないか。

感情的な「情動のカットオフ」としての離婚はいただけないが、ここまで考え抜いたうえでの離婚は、家族のそれぞれが進むべき道を進むためのきっかけになる。いわゆる発展的解消である。

ひとの親であったとしても、人間はあくまでも自分の人生を生きなければいけない。「子どものため」「夫のため」「妻のため」「あなたのため」を理由に、自分の人生の展開を諦めてはいけない。それは、自分の生きづらさを他人や社会のしくみのせいにすることだ。

中学受験そのものが破綻の直接原因ではない

離婚は悪であり極力避けるべきという思い込みに縛られていると、不本意な形で人生をすごし続けることになりかねない。しかし、いざとなったら離婚上等と考えていてもなおいっしょにいることを夫婦がともに選択するのなら、それは奇跡のような幸運なのかもしれない……。そのように考えたほうが夫婦はおそらくうまくいく。

『中受離婚 夫婦を襲う中学受験クライシス』(集英社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

拙著『中受離婚』執筆のためにほかにもいくつかの家族のオフレコ話を聞いたが、共通しているのは、中学受験そのものが夫婦の破綻の直接の原因ではないということだ。

中学受験をきっかけにそれまで目を背けていた課題に向き合わなざるをえなくなっただけだったというのである。

中学受験をきっかけに、夫婦の間にあったどんな課題が吹き出すかは、やってみなければわからない。

では、中学受験するにあたって夫婦関係の破綻を防ぐためにしておくべきことは何か。それはたった1つ、「見たくないものを直視する覚悟」である。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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