原子力の平和利用を再検証し、ポスト原発を視野に議論を

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原発推進のエンジン

66年に日本で原子力による商業発電が始まるが、10年近く後の75年でも原子力の発電比率は6・5%にすぎなかった。この状況を変えたのは、第1次石油危機後の74年に成立した電源三法である。多額の国費が原発周辺地域整備などに投入され、原発建設が促進される。その後、政界、官界、産業界、学界、マスコミなどが結集した「原子力村」が力を強め、原発推進のエンジンになったことは、詳しく報道されている。

現在、日本はNPT体制下、核兵器を保有しない代償に、大規模な原子力発電(世界3位)と核燃料サイクルを行う権利を与えられている。だが、平和利用から逸脱していないか、つねにIAEAに監視されている。

原発推進の歴史を見ると、推進派が時代に合ったキーワードを巧みに提示して、追い風にしてきたことがわかる。最初は「人類が得た夢のエネルギー」という夢が語られた。73年の第1次石油危機後は「脱石油依存」が旗印となる。79年に起きた米国スリーマイル島原発事故、86年のソ連チェルノブイリ原発事故により、国際社会での原発推進は失速する。

だが、90年代以降は、地球温暖化説が権威を高める中で、「原発はCO2を排出しないクリーンなエネルギー」という国民が理解しやすい「お墨付き」を得て、原発推進が世界で再起動する。

今後、もし日本がドイツのように原子力政策を転換して脱原発を意図したとすれば、「原子力村」の強固な抵抗が予想されることはもちろんだが、「脱原発で地球温暖化対策が後退するのではないか」という国民の危惧と向かい合わなければならない。その場合、温室効果ガスによる地球温暖化仮説にはたして科学的根拠があるのか、再検証することが必要になる。原発事故による被害、使用済み核燃料の処分、廃炉の費用、点検・廃炉に伴う被曝労働など、大きな負担を背負ってまで、「地球温暖化防止」のために今後も原発を推進しなければならないのか、という意見は当然出るだろう。国と電力会社はきちんとした情報を提示して、今後も原発を推進するか否かの判断を国民に仰ぐことが必要となる。

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